<3・作家志望の素人、いきなりペシャンコになる。>

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「関係大有りだ」  ついつい悪役令嬢みたいな口調が出てしまったが、見事にスルーされる。国枝はため息をつくと、渡された原稿を再びクリップで止めてテーブルの上に置いてしまった。これ以上読むつもりもないと言わんばかりに。 「小説がリアリティを持つかどうかは、経験に大きく左右される。医者の経験を持つ人間は病院の話を書きやすいし、警察経験者は警察の話を書きやすい。恋愛小説も同じだ。恋愛経験が豊富な人間は恋愛小説を書く時もリアリティが出る。……貴様の小説は、まともに恋もしたことがないのが透けてるんだよ」  ぐうの音も出ないとはまさにこのことだった。  この作品を応募したのは、とある女性向け恋愛小説のコンテストだった。それも少女向けではなく、もっとオトナ向けの、である。過激表現ありでもいいと応募要項に書いてあったし、該当レーベルからはえっちっぽい小説やマンガもたくさん出ていた。  だからまりんも、えっちシーンをこれでもかと盛り込み、流行りのイケメンを出し、流行っぽいざまぁ要素もねじ込んで絶対に通る作品を仕上げたつもりでいたというのに――。 「で、でも」  まりんはジト目になって国枝を見る。 「く、国枝先生は男性ですよね?女性として恋愛した経験なんかないのに、女の子の恋愛小説も出してるじゃないですか」 「そうだな」 「そ、それに!ファンタジーの……それこそ異世界転生なんて、だーれも経験したことないのに書いてるし売れてるじゃないですか!だったら、リアルの経験なんかなくたって……」 「なんだ、わかってるじゃないか」  国枝は、ふん、と鼻を鳴らす。 「そうだ、実際に経験したことのない話を書いている奴なんかいくらでもいる。経験は絶対に必要なわけじゃない。ましてや異世界なんか取材もできるはずがない。……じゃあそういう奴はどうするのか?何を求められているのかリサーチして、想像力で補う。作家に求められる“センス”は、この想像力に大きく依存していると俺は考える」  つまり、と彼は続けた。 「貴様はその経験値も足りてなければ想像力もない。この主人公の気持ちと立場を考える力も、読者の目線を考える力も、さらに読者の願望を想像する力も欠如している。それでどうして面白い話なんか書ける?」 「う」 「ヒロインのOLは、何でいきなり上司のイケメンにべた惚れになった?このイケメンがOLを好きになった理由は?彼女のどこに魅力があった?」 「う、うううう」
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