<3・作家志望の素人、いきなりペシャンコになる。>

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「エロシーンにリアリティもなければ妄想力も足りてない。突っ込まれて気持ちよくなっておしまい、一体どこで盛り上がったのかもさっぱり読み取れずにかえって萎える」 「ううううううう」 「散々好きだ惚れたと言っていたヒロインが、ライバルに一言二言言われた程度でイケメン上司の浮気を疑うのも唐突すぎる。というかこのライバルの登場そのものが唐突すぎて“お前は誰だ”になる。さては、展開をもたせることが出来なくて急遽プロットにないキャラを登場させたな?」 「ぎくっ」 「それから、序盤の展開もぐだぐだで……」 「うわあああああああああん、そこまでに、そこまでにしてくださいいいいいいいい!」  まりんは限界突破して、その場に突っ伏した。テーブルがあるから出来ないだけで、気持ちは土下座も当然だ。  想像はしていたが、想像以上だった。ここまでくそみそに言われるとは思ってもみなかったのである。いや、ライバルが登場する中盤まで読んでもらえただけで有り難いと思うべきなのかもしれないが。 「何だ、俺に話を訊きにきたくせに、これくらいのことを言われる覚悟もなかったのか」  頭の上の方から、国枝の声が降ってくる。 「やめたければ好きにすればいい、原稿を持ってさっさと帰るんだな。俺は、伯父さんの紹介だから仕方なく逢っただけだ。腐る程いる作家志望の一人一人に、丁寧に優しくアドバイスしてやるほど暇じゃない」 「ぐぐぐ……」 「結局貴様もその程度だったわけだ。……俺が小説家やっていると言うと、アドバイスをくれ感想をくれと言ってくる輩はやたらめったらと多いがな。その大半は俺の顔を見て近づきたいだけか、俺から出版社に紹介して貰えるのではと思ってるか、あるいは“プロ作家に褒めてもらった”と自尊心を満たしたいだけの輩だ。そういう奴は俺が正直なことを言えば軒並み逆ギレしていなくなる。貴様も所詮そのうちの一人だったと言うわけだ」 「!」  それで。まりんは何故、目の前のプロ先生がこんなに不機嫌だったのか、その本当の理由を知ったのだった。単に約束より十五分も早く来たから、だけではない。  顔は公表していなかったものの、彼の年齢は広く知られたところである。高校生でデビューし、本が売れないと言われるこのご時世で確実に成功を収めているプロ小説家。憧れる人は後を絶たないだろう。
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