<3・作家志望の素人、いきなりペシャンコになる。>

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 そんな彼にアドバイスを貰いたい人なんて、腐るほどいて当然だ。そして、アドバイスをくれと言う人間の半分以上が、実は褒め言葉だけ期待しているなんてケースは少なくないのである。WEB小説サイトでも、散々人が揉めているのを見たから知っているのだ。感想を下さい、と頼んでおきながら批判されたりアドバイスされただけで逆ギレするとか無視するとか。アドバイス下さい、勢の中にかなりの割合で紛れている“私の作品は完璧だから褒め言葉しか来ないはずでしょ”勢を見分けるのは、想像以上に難しい。  そして、そのタイプには大体ニ種類の人がいて、褒められるはずだと信じてプロに感想を押し付けがましく頼む人と、万に一つでも格上から非難されたくないからプロへの書評をぜった頼まない人がいるのである。思い込みが強いタイプは前者を選択し、プライドが高いタイプは後者を選択するのだろう。  自己顕示欲は、何も悪いことではない。  ただ、褒められたい目立ちたいというだけで人に迷惑をかけたり、人の誠意を足蹴にするなど論外なのだ。そんな人ばかりに出くわしていたら、そりゃ国枝先生もうんざりしてしまうことだろう。 ――そっか、私……。  試されてるんだ、と。やっとまりんは気がついた。  自分が褒められたいだけで、プロになる覚悟もない有象無象の一人か。それとも、どれほど厳しい意見も受け止めて、アドバイスを取り入れながら進化していける人間かどうか。 ――ここで、逃げたら。きっと私は……一生後悔する気がする。  そうだ、自分は変わりたくて此処に来たのだ。  傷つくのが怖くて、自分の作品へのプライドを捨てられなくて、一人でうじうじと悩んでいた自分から。  そう、思い出せ。初めて本気で楽しいと思える物語に出会った日のこと。物語を書く喜びを知った日のこと。そして、自分もプロになるんだと決意した日のことを。 「……帰りません」  まりんはぐっと膝の上で拳を握りしめて、テーブルから顔を上げた。 「こ、酷評されるのは怖いけど。でも、私は……私は本気でプロ小説家になりたいんです!だから、逃げません。お、お願いします、私に……もっと、面白いお話が書ける方法、教えてください!」  まりんの言葉に、国枝はどう思ったのだろう。少しは骨があるやつと思ってもらえたのだろうか? 「ほう、いい度胸だ」  にやりと笑って、国枝は告げた。 「なら俺が貴様に徹底的に教えてやる。恋愛小説のイロハってやつをな」
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