<4・セクハラと妄想は紙一重。>

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 心の中でぶつぶつと呟きながら、赤い顔を隠すように“失礼します”ともう一度叫んだ。いや、本当はここまで叫ぶシーンではないのだが、ついつい気合が入りすぎてしまったというやつだ。  油の切れたブリキ人形みたいにぎこちない動きになりながら、どうにかもう一度国枝の前に座る。国枝は、相変わらずにこにこしている。完璧に役になりきっていて驚いた。本当に、一度原稿を見ただけであるはずなのに。そう、高篠という男は表向きは非常に外面が良く親切なのに、実はものすごく俺様で強引な本性を秘めているというキャラクターなのである。だから、この面談の中でもそれが見え隠れするというわけだ。  実際まりんが、真正面に座ると、高篠に扮した国枝は露骨にまりんの胸を嘗め回すように見るのだ。そして、呆れたようにため息をついてぼやくのである。 「“……ま、その胸のデカさなら及第点か。”」 「“は……!?”」 「“ああ、いえ、こっちの話。胸が大きい女性が好みなもので”」  一瞬ぼやいたときに消える笑み、そしてすぐに復活する笑顔の仮面。五月は恥ずかしくなってついつい胸を隠しつつもこう思う。  この人、胸が大きい女性が好きなんだ。じゃあ私にもチャンスがあるかも、と――。 ――……あれ?  と、ここでまりんは気づいた。何かおかしくないか、と。すると国枝は、“そこまで”とパンッと手を叩いた。 「おい、貴様。今の台詞のやり取り。本当に自分だったら、と考えて書いたのか?」 「え」 「いいか。異動してきて早々、西島五月は一人だけで面談室に呼ばれた。別に仕事上の注意を受けるというのなら別室に呼び出されるのは不思議じゃない。他の社員の前で叱責するのは本来避けるべきことであるはずだしな。だが。……別室に呼ばれて言われた第一声がアレだったわけだ。現実の自分に置き換えてよく考えてみろ。いくら高篠がイケメンだからって、それでキュンとしたり一目惚れしたりするものか?」 「……確かに」  まったく仰る通りだった。まりんは呻くしかない。  これを書いた時まりんは、イケメン上司、俺様系、強引な上司に翻弄されるOL女子、という流行りの要素を満たすことしか考えていなかった。その結果、シチュエーションや心情の変化の強引さに気付いていなかったのである。  もし自分が五月の立場だったならどう思うか?きっとそれは間違いなく。 「セクハラだって……そう思うと、思います」 「その通り」  国枝は頷く。
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