<1・作家になるのは簡単じゃない。>

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 ***  小説家になりたい。  そう思ったきっかけは、小学生の頃に読んだ児童書と、国語の授業で小説を書いたことだった。  当時、まりもが通っていた小学校は非常に歴史のある公立校で、図書館も広いスペースにみっちりと蔵書があったのである。それでいて、司書の先生が毎月のように生徒たちのリクエストを受けて新しい本を入れてくれるので、小学校の図書館としては異様なほどにぎわいを見せていたのだった。  三人待ちをしてやっと借りた人気シリーズ、白い翼文庫の“遺跡チャレンジャーズ”。異世界の少年少女たちが、古代文明が残る遺跡を冒険し歴史の謎を解き明かしていくという物語だった。  最初は異世界ものとして読んでいたのが、物語が進むにつれ“現代の地球のはるか未来の話”であることがわかってくるのが面白い。遺跡には、コピー機やパソコン、エレベーターといったかつての地球の遺物が大量に残っているのだ。主人公たちは過去の文明の遺物として興味を示すが、それがどんな代物なのかまでは理解が及ばない。読者だけが気付いて、思わず鳥肌が立ってしまうというのも魅力の一つだった。  児童書なんて、刺激がなくて健全で退屈な話ばかり、なんてそれまでは思っていた。そもそもまりもは読書自体が好きではなかったのだ。漫画と比べて文字ばっかりで眠くなるし、読んでいてもきっと楽しくないだろう、と。それは、小学校低学年の時から義務のようにやらされてきた読書感想文の影響も大きいはずだ。課題図書、というやつはやれ初恋だの青春だの純文学だの、スリリングな物語が好きだったまりもにはまったく面白味のないものだったのである。それなのに、ポジティブな感想を書けと要求されるのだから、そりゃ読書そのものが嫌いになって当然なのだ。 ――好きなものを自分で選んで読めば、本ってこんなに面白いんだ。  気づけば遺跡チャレンジャーズは、全十五巻を自分のお年玉で買いそろえて読破していた。  本って面白い。物語って楽しい。そんな矢先に、小学校四年生の時の授業である。  物語の続きを考えて、作文で書いてみよう。国語の授業でそんな課題が出たのだ。  当たり前だが、小学校四年生の子供は作文の書き方は多少教わっていても、真っ当な小説の書き方なんて習っているはずがない。きっと今読めば、文法も何もかもはちゃめちゃな物語だなと感じることだろう。  それでも、当時のまりもが“自分で世界を紡ぐってこんなに楽しいんだ!”と知るには十分だったのである。 ――小説って……面白い!私も、自分の世界を広げていけるようになりたい!  それが、全ての始まり。  まりもは徐々に小説家という夢を描くようになった。絵がへたくそすぎて、到底漫画家を目指すことはできなかったというのもあるのだが。
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