<1・作家になるのは簡単じゃない。>

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 はじめはノートに小説を書いて、自分で楽しむだけでも十分だった。いつしか誰かに読んで欲しくなり、反響が欲しくなり、WEB小説のサイトに投稿するようになった。そして、WEB小説サイトのコンテストや公募に応募し、書籍化を夢見るようになったというわけなのだが。 「……今日だったのね、発表」 「うん……」  授業終わり。若干助教授に睨まれつつも講義を終えたまりもは、暫く講義室の机に沈没したまま動けなくなっていたのだった。  てかてかと光る茶色い机には、ものすごくブッサイクな顔になった茶髪ボブに丸顔の女が映っている。これがもう少し美人だったなら、自分も別の夢を見れたかもしれないのに、なんて思わなくもない。物語を表現する仕事は、何も小説家だけではないのだから。 「何がダメなのかなあ」  冷たい机に突っ伏して、ぐりぐりと額をこすりつけながら言う。 「いろんな小説読んだり漫画読んだりしてさー。面白そうな技術とか展開とかいろいろ盛り込んでさー、やれるだけのことやってるつもりなんだけどさー」 「今回は何のジャンルで応募したの、まりもちゃん」 「恋愛ファンタジー。異世界で溺愛される系。流行してるっていうから、それなら通ると思ったんだよ。前回の秀英館新人小説大賞の受賞作にも恋愛異世界ファンタジーあったから、カテエラっつーことはないと思うんだよね……」 「うーん……」  まりもの言葉に、同じ大学三年生の友人、駒村(こまむら)ミチルは苦笑いして言ったのだった。ちなみに、外見だけ言うとまりもよりミチルの方がよほど文学少女っぽい見た目をしていると思う。さらさらの長い黒髪に眼鏡、いかにも生真面目な大和撫子風だからだ。実際は、天然ボケと毒舌が入り混じる、かなりアクの強い性格なのだが。 「まりもちゃんが頑張ってきたってのは、高校から一緒のあたしもよーく知ってるけども」  ぽす、とまりもの頭の上にそれとなく筆箱を乗せて遊びながら言うミチル。いや、見えないけど多分この感触は筆箱なんだろうというやつだが。 「まりもちゃん、ずっと独学でやってきたでしょ?それがダメってことはない?」 「スクールとか、小説講座とかやった方がいいってこと?でも、どんなのが良いか全然わかんないんだもん。それに大抵、お金たっかいしさぁ」 「まあ、お金出して講座受けたのに中身が薄かったり、求めたものじゃなかったらショボーンだとは思うけどね。でも、まりもちゃん、そういうもの受けないのはお金の問題だけじゃないでしょ。だって、最近はあたしにもほとんど小説見せてくれないじゃない。サイト移転してからは、WEB公開してる作品も読ませてくんないんでしょ。小説読まれて、それで酷評されるのが怖くて逃げてない?」 「うぐ」
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