<1・作家になるのは簡単じゃない。>

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 それは、否定できない。あまりメンタルが強い方じゃないという自覚があること、そして小説家としての才能がないと思い知らされるのが怖くて、人からアドバイスを受けることをほどんどしていなかったのは事実である。というか、WEBに載せてる小説でさえ、ちょっと否定的な意見が来るとすぐ落ち込むくらいなのだ。  わかっている。本気でプロを目指すのであれば、人のアドバイスを聞けないなんてのは話にならないということくらいは。それで結局、一人だけで試行錯誤を続け数年、まったく芽が出ないまま今に至っているのである。  卒業したら(内定が決まっていれば)社会人になる。きっと今ほど小説を書く時間は取れなくなってしまうだろう。だからその前に大きな賞でも取って、小説家としてデビューできる下地を作っておきたいなんて思ってしまうのだが。 「勘違いしてるかもしれないけどね。どんな人にとっても面白い小説なんてものはないのよ?」  まりもの頭の上にさらにミニタオル?らしきものを乗せながら言うミチル。完全に遊ばれている。おかげでまりもはまったく動けない。 「芥川賞や直木賞を受賞した作品でさえ、日本人全員が読んで面白い話かっつーとそういうわけでもないんだから。どんな大きな賞を受賞しようが、大御所作家になろうが、マイナスの感想がつかないなんてことはないの。売れれば売れるほどむしろ増えていくものなの。デビューもする前から、怯えててどーするのよ」 「うう、だってさあ……」 「一次選考突破したいんでしょ?ゆくゆくは、書籍化デビューしたいんでしょ?だったら、そろそろもう一歩、勇気を出してトライしてみる時期に来てるんじゃないかな」  まるで、具体的に考えでもあるかのような物言いである。どういうこと?と尋ねようと首を傾けたところで、頭の上に乗せられていた筆記用具がばらばらばらーっと落下した。ああ!と小さくミチルの悲鳴が上がる。 「ちょっとまりもちゃん、勝手に動かないでよもう!もう少しでピラミッドできるところだったのにい!」 「ピラミッド!?えっとミチルさん、私の頭をなんだと思ってるんですかね?」 「丁度良い台座?」 「なんでやねん!」 「まあそれはさておき」  落下した筆箱を足元から拾い上げつつ、ミチルはにっこりと笑顔で言ったのだった。 「実は、あたしの親戚にプロの小説家の先生がいるの。……超気難しいんだけどさ、その先生にアドバイス貰ってみるってのはどうかな?ちょっと名の知れた先生だし、腕は確かだよ。まあ、確実に酷評されるとは思うけどね!」
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