<2・国枝海星というすごいヒト。>

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<2・国枝海星というすごいヒト。>

 ミチルいわく。  紹介するべきかどうか、というのはずっと前から迷っていたことらしい。親戚にプロ作家がいて、まりんがプロを目指していると知りながら教えてくれなかったのは一応理由があるようだ。  一つ目は、遠い親戚であるためそこまで親しいわけではなかったこと。  二つ目は、その作家先生の性格だ。執筆の腕は確かだし、時には有料講座を開くこともあるようだが、まあとにかく厳しいことで有名なのである。中には自信作を酷評されすぎて心折れてしまった人もいるとか。独特の持論を持っているため、それが合わずに大ゲンカしてしまった人もいるとか。逆にその酷評に妙にキュンときちゃって彼のファンになってしまい、半ばストーカーのようになってしまった元ファンがいてトラブルになったこともあるとかないとか。――いや、どこまで本当かはミチルにももはやわからないことらしいが。あまり良い噂がないのは事実らしい。 『でも、まりんちゃんずっと頑張ってるしさ。このままずーっと一次落ちし続けるのを見るのもなんか不憫だなって思って』 『おいコラ、落ち続けると決めんなや』 『でも自分でもそうなるかもしれないってちょっと思い始めてるでしょ?一次落ちした作品が必ずしも小説として成立してないレベルだとは思わないけど、でも何かをミスってるからあっちでもこっちでも落ちてるんじゃないかとあたしは思ってるわけで。一皮向けたいっていうなら、話してくるように伯父さんに頼んでみるよ?一番あの人と仲良いの、あたしの伯父さんだから』 『ぐ、ぐぐぐぐ……』  本当の意味で、覚悟ができたわけではない。それでも悩んだ末、まりんはミチルに頼んでみることにしたのだ。その作家先生にアポイントの許可を貰うことにしたのである。  OKが出たとミチルに教えて貰ったのは、それから一週間後のこと。この話をしてから約一か月後、まりんは作家先生と会わせて貰えることになったのだった。所定の時間に自宅に行けば通してくれるということらしい。 ――しかしまさか。  その日は快晴だった。初夏のちょっと蒸し暑い日である。やや目に痛い日差しに眉をひそめながら、グーグルマップを頼りに住宅街を歩いていく。駅前の大きな通りから少し外れているので、グーグル先生がなかったらちょっとばかり辿り着くのに苦労したかもしれない。歩きスマホにならないように要注意だ。  ありがたかったのは、プロの先生とやらの家が埼玉県南部にあったこと。東京からアクセスしやすい場所であり、山手と京浜に乗るだけで到着することができた。これが県北や県西だったら結構面倒だったかもしれない。埼玉に住んでいるまりんいわく、埼玉は県南と県北、県西と県東で東京からのアクセスしやすさが大きく違うのだという。 ――まさか、ミチルの親戚のプロ作家さんってのが……国枝海星(くにえだかいせい)先生だとは……。
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