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国枝海星。女性向け恋愛小説が特に人気だが、男性向け恋愛小説、ホラー小説、ミステリー小説など多彩なジャンルで書いている小説家である。顔写真が出たことはないが、十七歳の高校生でデビューして、今もなお現役大学生で書き続けているというのはあまりにも有名な話だった。
また、先日まりんが一次落ちした秀英館新人小説大賞で審査員を務めた一人でもある。
公募やWEBコンテストの場合、多数の応募作品全てに審査員が目を通すことは少ないと噂されている。ある程度文章が成っていない作品や、カテゴリーエラーの作品などを落としていく“下読み”という人が別に雇われているとかなんとか。
が、この秀英館新人小説大賞は、選考期間が非常に長い代わりに、下読みを雇わずほとんどすべて審査員と運営委員の人だけで読んで判断しますと宣言されている公募なのだった。もちろんそれが本当かどうかなんてまりんにはわからない。ただ、下読みとかいうよくわからない人に落とされずちゃんと審査員に読んでもらえるなら、という理由でまりんがこの公募に託すことに決めたのは確かなのである。
その、特別審査員の一人である国枝海星が、よもやミチルの親戚。これには運命を感じずにはいられない。
さすがにまだ二次選考以降の結果が出ていない以上、先日出した“自信作”を見せて個人的にアドバイスを貰うのはマナー違反だろう。今回は、別のコンテストに出して、これまた一次審査落ちだったそこそこの自信作をコピーして持ってきていた。場合によっては、WEBサイトに載せている作品のアドレスも教えるつもりでいる。
どこまで読んで貰えるかわからないが、ミチルがアポを取ってくれた以上、まったく話も聞かないで追い返されるということはないだろう。自信を打ち砕かれるほど酷評されることがあるらしいというのは正直怖いが、まりんとしてもこのままずっと一次落ちを続けて自信作がゴミになっていくのは避けたい。
勇気を出して一歩踏み出す。きっと、今がその時なのだろう。多少厳しいことを言われてもめげずに、そのアドバイスを聞いて小説を書けるように努力する。――できる自信があるわけではないけれど、できるようにならなければいけない。
「え」
そして。
国枝邸の住所に辿り着いたまりんは、思わずすっとんきょうな声を上げることになるのだった。
「え、え、ええええええええええええええええええ!?す、すげえ豪邸……!!」
確かに駅前通りから道は外れている。が。
国枝、と書いた一軒家は、とんでもなくデカい洋館だった。それこそ、見間違えようのないほどの。
「わんっ?」
まりんの声を聞いたか聞いてないのか?庭先の小屋でつながれている柴犬が一声鳴いたのだった。黄色に紫、ピンクと様々な色の花が咲き乱れている庭は、犬が走りまわるのに十分な広さである。
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