12人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
***
ピンポン、を押すと中から現れたのは年配のメイドさんだった。メイドっぽい服装を着ているから多分間違いないのだろう。眼鏡をかけた老女は、お待ちしておりました芦川さん、と上品にお辞儀をしてきた。そして、そのまま玄関へ案内してくれる。
――ふおおお……れ、令和のご時世の日本にこんな場所があろうとは……!
紺色の屋根の上では、風見鶏のようなものがゆったりと風に回っている。
薄緑色の壁の一部は蔦が這っており、洋館の“いかにも”ぷりを冗長しているようだった。雑草一つ生えていない花畑のような庭の中心を、これまたコケ一つ生えていない綺麗な石畳の道がまっすぐ玄関へ伸びている。そんなまりん達をじっと見つめるのは、屋敷と同じ紺色の屋根の犬小屋に繋がれたキツネ色の柴犬だ。目をキラキラさせて、くるんとしたしっぽを振ってくれている。ひとなつっこそうだった。後で触らせてもらうことはできるだろうか。
いかにも洋館っぽい作りなので気にしていたが、さすがここは日本なだけあってタタキと靴箱はちゃんとあるようだった。玄関を入ると、ここで靴を脱いでくださいねと指示され、スリッパを出される。それでちょっとだけ安心してしまった。実は国枝先生がものすごい外国かぶれの人だったら落ち着かないだろうなと思ったからだ。
よく磨き上げられたフローリングの床を、メイドっぽいおばあさんに連れられて進んでいく。ここでお待ちください、と言われたのはいわゆる応接室と思しき部屋だった。
――わ、私……ちゃんとお客さん扱いされてる!
待たされながら、紅茶とクッキーを出してもらう。玄関を上がった時少しだけ薄れた緊張がまたぶり返してきていた。
写真も出しておらず、性別も非公表な国枝海星先生。一体どんな人なのだろう。女性向け恋愛小説が上手いことからして女性である可能性が高そうだが、しかしこの人は男性向け恋愛や男性向けのエログロホラーなんかも書いている。文章からでは、読み取るのが本当に難しい。
まりんも、国枝先生の恋愛小説とホラーなら手に取って読んだことがある。恋愛系での好みがうるさい自覚があったが、国枝先生のそれは普通に面白かった。実力があるのは間違いないのだ。そして、プロとしてやっていけている以上、人格的にそこまで問題があるわけではないと信じたいのだが――。
「!」
最初のコメントを投稿しよう!