<2・国枝海星というすごいヒト。>

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 出された紅茶は、いつの間にか飲み切ってしまっていた。約束の時間丁度――それくらいになってようやく、廊下から足音が聞こえ始める。 ――き、き、き、きた!  ばくばくと音を立てる心臓。バッグの中から原稿の入ったファイルを出すべきかまだ入れておくべきか――そんなことを考えていると、いきなりガチャリとドアが開く。  そして、開口一番に響いた声は。 「約束の時間は十一時だったはずだ。それより十五分も前に来るなんて、マナー違反すぎるだろう、貴様」  ものすごーくご機嫌斜めで横柄な、若い男性の声。  ぽかん、とまりんは口を開けて固まってしまう。 ――え、え?男の、ひと?  ドアの前に立っていたのは、細身で長身の若い男性だった。すらりと通った鼻筋、日焼けを知らないような白い肌、さらさらの黒髪に怜悧な瞳。ちょっと見ないくらいの美青年が、いかにも不機嫌ですという表情を貼り付けてそこに存在していたのである。  年齢的には合致する。だが。 「ま、まさか……貴方が、国枝海星、先生?」 「そうだが?」  彼は苛立ちを隠すつもりもない様子で、どっかりとまりんの正面のソファーに座った。 「会う場所が喫茶店や会議室ならともかく、人の家に来るのに十五分も早く来る馬鹿がいるか。貴様ももう大人だろう、最低限の常識くらい学んでから来たらどうだ」 「す、す、すみません!」  確かに、少し常識知らずだったかもしれない。人を家に招くなら、直前まで家の掃除をしたり綺麗に準備しておきたくなるのが人間の心理であるはずだ。十五分も前に来られてはそれが間に合わないケースもあるだろう。確かに、普通の待ち合わせと同じ感覚で失念していたのは確かだ。正直に謝罪することにする。  ただ。 ――き、貴様って言ったよなこの人!?貴様って!  もしや俺様キャラなのかそうなのか。冷や汗をだらだら流しながらまりんが彼の顔を見れば、それで?と彼は睨みつけるように続けるのである。 「伯父さんの頼みだから受けてやっただけだ。俺は忙しい、さっさと用件を言ったらどうだ」  これが、超ど級に偏屈で、超ど級にイケメンな――国枝海星とまりんの出会いであったというわけである。
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