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新しい職場
「北原真悠子と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
まだじっとりとした蒸し暑さが続いている9月1日の朝、私は北南大学病院の医局の中にいた。
先月、この消化器内科の医局秘書として採用され、今日からここで働くことになったのだ。
白衣に身を包んだ溝口教授と3人の秘書の方たちの前で深々と頭を下げる。エアコンが効いた部屋の中なのに、緊張からかブラウスの下で背中から汗がスーッと流れ落ちてきた。
「北原さん、今日からよろしく。面接のときに話をしたのは私と准教授の遠藤先生だけだったよね?」
目の前に立っていた溝口教授が柔らかな口調で聞いてきた。
「はい、そうです」
条件反射のように口角を上げて笑顔で返事をする。
こういうとき、CAで培った自然な笑顔が大いに役立ち、コミュニケーションを円滑に進めることができる。
それにしても──。
面接の時から少し感じてはいたけれど、表情と口調は穏やかなのに、直感的にどこか嫌な雰囲気を感じてしまう教授だ。
「では最初に秘書の紹介をしておかないとね。この人は教授秘書の中林さん。そして医局秘書の河田さんと岡野さん」
教授に名前を呼ばれた人たちが次々と私に会釈をしてくれる。私はひとりひとりの顔を見ながら「よろしくお願いいたします」と頭を下げた。
「あとは河田さんたちから色々教えてもらって。北原さんなら3日もあれば覚えられるよね? 前は客室乗務員をしていたんだし楽勝でしょう? 期待しているからね。私はこれから会議が入ってるからこれで失礼するよ」
溝口教授はそう言うと、秘書の中林さんと一緒に教授室の中に入っていった。
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