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お墓参り
メイクを終えて荷物を纏めていると、ちょうど先生から電話がかかってきた。
宿泊の準備なんてCA時代に何度も経験して慣れているはずなのに、思いのほか3日分の洋服選びに時間がかかってしまい、ギリギリになってしまった。
今日はお墓参りに行くだけなのでお洒落をするのもどうかとは思ったけれど、先生と一緒に過ごすからにはやっぱり手を抜くことなんてしたくない。だからこの間の先生の私服をイメージして、それに合いそうなスマートカジュアルな服を選ぶことにした。
少し急いだせいか、ハーフネックの黒いニットのワンピースに着けた大ぶりのロングネックレスが胸元で揺れている。それが少し気になりつつも、私は大きく深呼吸をしてスマホをタップした。
「真悠子? 今、マンションの下に着いたんだけど準備できた?」
「あっ、うん。ちょうど今終わったとこだから下に降りるね」
鏡の前でもう一度自分の姿をチェックして、荷物を入れた小さなスーツケースを持って下に降りると、マンションの前にハザードランプをつけた先生の車が停まっていた。スーツケースを見た先生が、車から降りてトランクを開けてくれる。
「えっ、先生……スーツなの? どうして?」
先生の姿を見て、私はびっくりしてしまった。
先日のような私服ではなく、白いワイシャツにネクタイを締め、これからどこかフォーマルな場にでも出向くようなきっちりとしたスーツなのだ。しかも身長が高くイケメンなだけあって、見惚れてしまうほどかっこいい。
ただお墓参りに行くだけなのに、どうしてわざわざスーツなんか……。
「真悠子のお父さんとお母さんに会うのに普段着だと失礼だろ? 教授にもお母さんにもきちんと真悠子を守らせてもらう許可をもらわないといけないしな」
そんなことを言われると嬉しくて胸がいっぱいになってしまう。おまけにこんなスーツ姿で言われると、なんだかこれから結婚の挨拶にでも行くみたいで、勘違いしてしまいそうだ。
「それと俺は先生じゃなく、遼輔だけどな」
先生が何か私に不満でも言いたそうな顔をして、じろっと視線を向けた。
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