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お墓参りを終えて、少しドライブしながら遅い昼食を食べ終わると、時刻は既に16時を過ぎていた。
「もう16時なんだね。中途半端な時間に食べちゃったからもう夜ごはんいらないかも」
助手席から真悠子が俺の方へ顔を向けたのがぼんやりと視界に入ってきた。
「ほんとだな。焼き立てのパンが美味しくて食べ過ぎた」
ハンドルから片手を離して頬を緩めながらお腹を擦る。
車を走らせながら偶然入ったレストランだったけれど、ハンバーグ専門店と謳っているだけあってメニューが豊富で、肉々しいあらびきの美味しいハンバーグのお店だった。真悠子と「また来たいね」と話したほどだ。
これから訪れる大切な夜のために、ここでしっかりと体力をつけておかないと──と思いハンバーグをダブルにしたのだけれど、思いのほか焼き立てのパンが美味しくてつい食べ過ぎてしまった。もう少しセーブしておけばよかったと今さら後悔しても遅いけれど、まだ夜まで時間もあるし少しは消化されるだろう。
「焼き立てのパンもそうだけど、先生またハンバーグをダブルにしちゃうから」
一緒に過ごしたあのクリスマスイブの日のことを楽しそうに話す真悠子に、俺は少し揶揄ってみようと運転席から一瞬じろっと睨みつけた。
「また先生って呼んだだろ?」
「あっ……。だってまだ……慣れないんだもん……」
ほんとにいつになったら俺のことを名前で呼んでくれるのか。そこにこだわる俺もどうかと思うが、俺は他人とは違うんだという特別感が欲しくて、先生ではなく名前で呼んでほしいと思ってしまう。
「まだ慣れないんだもんってそんな可愛く言われてもな。さっきのお墓でも先生って呼んでたし、じゃあ……早く慣れるように特訓でもしようかな」
「特訓、ですか? どうやって?」
どうやって?と普通に尋ねてくる真悠子が愛しくてたまらない。
もっと可愛い真悠子を見せてもらう特訓だよ──と答えたら真悠子はどんな反応をするだろうか。
果たして意味が通じるのか?
いや、きっと真悠子のことだから「どんな風に?」と普通に聞き返してくるだろう。
俺はこのあとの特訓を思い浮かべながら、何も言わず真悠子の顔を見て微笑んだ。
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