16.白い華 / 新藤博人

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  「すみません……。家族も来てくれる予定だったのですが、インフルエンザにかかってしまったり、予定が合わなかったので断念したのです。出産予定日は明日ですけどまだ産まれないと聞いていましたし、こんなことになるとは思いもよらなくて……」  申し訳なさそうに俺に謝ってくれた。  腹が立ったからといって、俺はなぜ空色を責めてしまったんだ。違うのに。そうじゃない。 「申しわけありません。律さんを責めている訳ではないのです。ただ、私だったらきちんとフォローをするか伴侶の傍にいます。自分の夢も大切ですが、家族以外に大切なものはこの世にありません。いなくなってからでは遅いのです」  旦那に聞かせてやりたい。  傍にいて当たり前だと思っていた家族が、突然いなくなる恐怖を。  そうなれば、彼女を大切にせず蔑ろにしていた自分を一生責め続けて後悔する。  そうなった時の地獄は永遠に続くぞ、ってな。 「とにかく急ぎましょう」  目の前の信号が青になったのを見て、俺はグッとアクセルを踏み込んだ。  新居から十分ほど車を走らせたところにある病院へ到着した。時間外のため裏口に回り、空色に付き添って産科までの道のりを歩いた。  空色は大きく膨らんだ腹をしきりに撫でて不安そうにしている。俺はどう声をかけていいかわからなくて、二人無言で産科の検査室へ急いだ。 「荒井さん、大丈夫ですか」  部屋に入るなり、太めの看護師が声を掛けてくれた。恐らく空色から連絡を受けて待っていてくれたように見える。診察できる準備がすでに整っていた。 「鼓動が聞こえなかったら心配になるよね。少し検査するから横になってくれる? あら。今日はご主人も一緒?」 「えっと……」空色は返答に困っている。 「ご一緒にどうぞ」  成り行きで仕方なく連れ添われ、一緒に診察室の中に入った。   「ご主人はそこに座っていて下さい」  診察室の隅の方に丸椅子を用意してもらったので、そこに腰かけた。緊急事態に『旦那じゃない』と弁明するより検査が優先だから仕方ない。
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