002 カラフルなママのお出かけ

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002 カラフルなママのお出かけ

「もう。じゃあ、お昼ね。うん。大丈夫よ。今から支度するから。少し遅れるかもしれないけどー。うん、じゃあ後でね」 ママは電話を切った。 そしてすぐに二階へ駆け上るように走って行った。 またママデートみたいね。 そうね。 見ててごらん。 珍しくまたスカートはいて下りて来るから…。 私とホーは階段の下でママが下りて来るのを見てた。 ママは普段はかないスカートをひらひらさせながら階段を軽い足取りで下りて来た。 ね。 私とホーは顔を見合わせて笑った。 「ママ出掛けて来るから、ちょっと留守番しといてね」 ママは私とホーの顎の下を指先で撫でた。 私はホーの顔を見て、示し合わせる様に二人でママに吠える。 「わかったわよ。ほら」 ママは吠える私たちにおやつのクッキーを二つくれた。 人間の世界ではこれを「口止め料」って言うらしいけど。 ママは買ったばかりのブーツを玄関ではいて、お気に入りのバッグを肩から提げた。 玄関の棚の上に置いた車のキーを取り、指で回しながら、ママは出て行った。 私とホーは玄関でそのママを見送る。 最近、ママ、お出かけの回数増えてるよね。 ホーはクッキーの粉を舐めながら私に言う。 そうね。 ほとんど引きこもりでネットばっかしてたのにね。 パパさんとか気付かないのかな…。 パパさんは家の事に関心ないんだよ。 ママが髪切って来ても気付かないしね。 私とホーはいつものリビングの陽のあたる場所に移動した。 そしてゆっくりといつものように丸くなる。 ママの運転する車がガレージから出て行った。 側溝の蓋をタイヤが踏み、大きな音をたてる。 ホーは水を飲みながら、そのママを見送っていた。 ママが居ないとソファで寝れるから良いな。 ホーはそう言うとソファに飛び乗り、丸くなった。 私はソファより硬いフローリングの方が好き。 最近、知らない人の匂いが増えて来たよね。 ホーは鼻をクンクンしながら言う。 そうね。 多分ママの彼氏の匂いなんだと思うけど。 何年か前にもあったよね。 うん。 あの時はパパさんだよ。 パパさんに彼女がいてさ。 その彼女の匂い。 なんか安っぽい香水の匂いだったな。 私は外を眺めたままホーに言った。 私嫌いだったな。 あの匂い。 私もよ…。 でもあれはすぐにパパさん振られちゃったはずよ。 すぐに匂いも消えたし。 私はその時の匂いを思い出した。 そして吐きそうになった。 あの匂いはこの家の新築祝いのパーティをした時にやって来た、パパさんの会社の圭子って女の匂い。 誰にもわからないかもしれないけど、私たちにはわかるのよ。 だって犬なんだもん。 パパさんもつまんない女が好きなんだね。 ってあの時もホーと話した。 何にも言えないから、そのつまんない圭子って女に撫でられて、もう気持ち悪くて気持ち悪くて、早く帰ってくれないかなって思ってたな。 ママ。 何時に帰って来るのかな。 今日はほら、下着替えなかったから早いよ。 ホーは不思議そうな顔をしてた。 どうして…。 私は溜息を吐いた。 あなたもまだまだガキね。 ママが下着を替えて外出する時は彼氏とセックスするのよ。 今日は替えなかったから、ご飯だけでしょ…。 ホーは納得したかのように頷いてた。 ママ、パパさん以外とセックスしてるんだ。 そうよ。 だから彼氏の匂いしかママからしないでしょ。 そうか。 パパさんとはもう長い事セックスしてないはずよ。 匂わないもの…。 私たち犬は大抵の事は匂いでわかる。 例えば、パパさんが焼き鳥食べて来たとか、お風呂入って来たとか。 人間にはわからなくても私たちにはわかるの。 喋れないから、そんなことわかっても仕方ないけどね。 喋れないから人間は平和なのかも。 喋れたら、浮気なんてすぐばれちゃうしね。 少し前に「バウリンガル」なんてモンが流行ったけど、あれはデタラメ。 お腹すいたって言ってるのに、遊んで欲しいって認識したみたいで、パパさんに無理矢理散歩連れてかれた事あったし。 まあ、たまには機嫌取らなきゃいけないから、いいけどね。 さて、ママが帰って来るまで、少し寝よう。 ホーもウトウトしてるみたいだしね。 ママは彼氏と会うと機嫌良くなるから、私たちには好都合なのよね。 頼むわよ。 ママの彼氏。
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