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3
四頭の獣は互いに時折ジャレ合いながら森を進んで行った。
秋の夜は長く、月は親密な道案内のようにサラサラとした月光で獣たちの前途を照らしてくれている。
レンは足音を立てずに藪を搔いくぐり、アレジは枝を渡り、ギザは潅木もツタも大きな前足でなぎ倒して進む。
ヤタツは細い体をしならせるように藪や木立をかわして歩いた。
「おい、あそこだ」
先頭を軽快に駆けていたヤタツが立ち止まって仲間を振り返った。
そこは松林の終わり、人が頻繁に出入りする里山と獣たちの縄張りの境界となっている小さな丘の上だった。
丘の上には桜の巨木が枝を広げており、紅葉したその落ち葉を敷き詰めた地面の上に一人の人間が座り込んでいた。
匂いはその人間から漂ってきていた。
「人だ!」
とギザが怯えたように小さく叫んだ。
「女だ」
とアレジが断定し、
「一人だな」
とレンはあたりを見回してからヤタツに言った。
「何をしているんだ? 仲間とはぐれたのか」
「ケガでもして動けないのか」
「この匂いはなんだ、甘くてうまそうだな」
好奇心は身を滅ぼす。
と年を経た獣たちが言い伝えていたかはわからないが、四頭の若い獣は興味津々で丘の人を観察しはじめた。
「見たところ子どもじゃないか?」
「いや、若いが子どもではないよ」
「もう子を産んでいるか?」
「どうだろう」
「やはり子どもだろう」
丘の人は小さな提灯をかたわらに置き、なにをするでもなく月を見上げてじっとしている。
「おいヤタツ、おまえ変化が出来るだろう、何をしてるかちょっと見てこいよ」
とうとうレンが言い出した。
「いやだよ、婆様にバレでもしたら大目玉じゃないか」
ヤタツは尻尾を震わせた。
「鼻の利かない人の子なんて、月と提灯のあかりだけじゃ人と獣の区別なんかつくものか」
アレジが小馬鹿にしたように言う。
「よそうよ、むやみに人に近付くもんじゃないよ」
ギザは大きな肩をすぼめて仲間に忠告した。
「ギザは相変わらずの怖がりだ。栗鼠が落とした胡桃の殻にしょんべんチビってた頃とかわりゃしない」
「怖がりは良い事だと親父様は言ってたぞ」
ギザはちょっとむっとして言い返した。
ギザの親父といえば他の熊や狼族の群れを蹴散らしては毎年縄張りを拡大し、幾多の子熊を儲けた森で最大の大熊だったので、三頭はそんなものかなと一瞬黙り込んだ。
「見ろ、立ち上がったぞ」
レンが言った。
丘の人は提灯を持って立ち上がった。
ひそひそと話していた声が聞こえていたのか、こちらへ向かって歩いてくる。
「どうする、逃げるか?」
アレジが目をキョロキョロさせて仲間を伺った。
「誰かいるの?」
声を掛けられ、四頭は一斉に動きを止めた。
声の主は、頬の赤い丸い眼をした少女だった。
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