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「あー……これ、乳歯だね」
先生の言葉に美月は目を丸くする。
「え?先生、私16歳ですけど。まだ乳歯なんてあるんですか?」
「そうだねー、たまにいるよ。永久歯が成長しなくて乳歯のままの子。ほら、このレントゲンみて」
美月がレントゲン写真に視線をうつすと、先生がペンで指した。
「こっちがね、今、欠けた乳歯。これはもう抜くしかないね。下から永久歯が生えてきてるから」
「はい」
「で……こっちね。この乳歯、まだしっかりしてるし、永久歯が成長しなさそうなんだよね。だからこれは、この乳歯を大事にしてね」
レントゲン写真には、確かにしっかりとした乳歯が写っていた。見た目には永久歯との違いがわからない。
「さ、それじゃあ欠けた乳歯を抜くから。まず麻酔するよ。力抜いてねー」
チクッと刺さったのち、歯茎の感覚が鈍くなる。
先生によって欠けた乳歯が抜かれるのは、痛みじゃなくても感じる。
乳歯なんて、子供の頃に全部なくなると思ってたのに。二本も残っていたなんて。
今回、欠けてしまって一本は抜いたけど、何故かしぶとく残っているという乳歯に、だんだんと愛情が芽生えてきた。
「絶対、大事にするからね」
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