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 視界一面に乱舞する桜吹雪。  強い風に乗って吹き付けてくる花弁は、皮膚を切り裂かんと、襲い来るもののようにも見える。  思わず腕を持ち上げて顔をかばう照之の耳に、その時翔の声が聞こえてきた。 「兄さん」  呟くようだったが、強い風の音に紛れることもなく、その声はくっきりと照之の耳に届く。 「ごめんなさい……兄さん。こうするしかないんだ。こうするしか……」  わずかに震える翔の声に、照之は歯を食いしばって顔を上げ、周囲を見回した。  薄目でぼんやりとした視界の彼方に、彼の求める弟の姿がある。  彼はこれまで見たこともないほど悲しげな顔をして、照之の方を見つめていた。 「翔……行くな。こっちに来るんだ」 「兄さん……ごめんなさい」  翔がそう呟いた瞬間、今まで吹き付けていた桜の花弁が、まるで意志あるもののように爆発的な勢いを伴って吹き付けた。先ほどとはまるで違う重量感を伴って、照之を圧倒する。その圧迫感に、照之は前へ進むこともできなくなる。 「ごめんなさい……兄さん。さようなら」 「翔!」  照之が腕を伸ばした先で、翔の姿が少しずつ薄れてゆく。その光景に、照之の中に絶望感が膨れ上がったとき、一層強い風が吹き付け、照之の体が押し戻された。そのとき彼は、視界の彼方で弟の姿が乱舞する花弁に隠れ、消えるのを見た。 「翔、行くな!」 「テル!」  すぐそばから毅の呼ぶ声が聞こえたとき、照之ははっと我に返った。
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