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 そんな長命種たちにとって地球人は、基本的に友好関係を築いてきた相手だったが、無条件の信を置いているわけではない。むしろ扱いを間違えれば即自分たちの生活を脅かす危険性もある、警戒すべき存在なのだ。  事実として長命種の存在が地球人たちの間で公になれば、抵抗する術などないまま、大きな波乱の渦に投げ込まれ、彼らの安寧が失われるのは必至だろう。  だからこそ長命種たちは、みな人里離れた場所で地球人たちの目から逃れ、あるいは街中で息をひそめるようにして生きてきたのだ。それに、そんな事情を抜きにしても、長命種とは、静かに生きることを好む人々であった。  そんな彼らの集落へ地球人の女性が迷い込んできたとなれば、長命種たちの動揺も無理はなかった。  逃げてきた彼女は、多くを語らなかった。  だがろくろく荷物も持たず、ひどく痩せ、しかも顔や手足にいくつもの痣を作っているところから、毅は初対面のときからおおよその事情を察していた。すでに両親を亡くし、ひとり住まいだった彼は、彼女を家で休ませることにした。  まともに歩くのも難しいほど衰弱していた彼女だったが、少しだけ休んだらすぐに出て行くと言い張ってきかなかった。誰にも迷惑を掛けまいという義務感と、誰も信じられないという警戒心が、すぐにでも倒れこみそうな彼女を、かろうじて支えているようだった。  しかし、そんな彼女と、彼女を匿った毅に対する周囲の反発は、意外なほどに強かった。  毅があくまで彼女を匿い続けるなら、集落を出ろとまで迫られることとなったのだ。  集落の人々の、地球人を恐れる心情が、毅には手に取るようにわかっていた。だが同時に、まだ体の本調子でない女性を追い出すことも、毅にはできなかった。  集落の人々に迷惑をかけることはできないと判断した毅が、出て行けという人々の声にうなずこうとしたとき、それに反対したのが、照之と翔の両親だったのだ。  先祖たちの遺物についてよく知り、普段長命種たちが使っている遺物の修理を生業にしていた毅は、同胞たちから『骨董屋』と呼ばれてきた。  長命種たちは普段、先祖たちが遺した『遺物』と呼ばれるかつての文明の名残である数々の不思議な道具を使って暮らしている。
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