3.

4/6
前へ
/83ページ
次へ
 そんな経緯から、武田家の人々と毅は、その後もひとかたならぬ付き合いを続けることになり、その縁で、毅は、両親を失った照之と翔を引き取り、世話をすることになったのだ。  さらに毅は、自分の持つ遺物についての知識や修復の方法、狩猟の技術など様々な、日々の生活の糧を得る手段を、照之に惜しげもなく教えてくれた。つまり照之にとって毅は2人目の父とも、兄とも言える存在であり、また偉大な師匠でもあった。  そんな毅は、翔をこちらへ避難させるときにも、翔がいなくなってからも、当たり前のような顔で照之に付き合ってくれている。そのことが、わけのわからない事態に巻き込まれている照之にとっては、何より心強い支えだった。 「……そうですね。翔が目の前で消えてからずっと、何かあると翔の顔が浮かぶんです。  どうしてあんなことになったのかと。長命種の俺たちでも、どうやったのかわからない消え方でしたしね」  翔は、照之と毅の目の前で、満開の桜の花吹雪に紛れるようにしてかき消えた。照之たちも使っている転移装置を使用したのかとも思ったが、翔が消えたあと、翔が立っていた場所には転移装置など見当たらなかった。  転移装置を使ったのなら、使った人間が転移されたあとも、その場に装置が残っているはずなのだ。結局照之たちは、未だに翔がどうやって消えたのか、どこへ行ったのか、わからずにいる。 「……昔からあいつには、不思議なところがあったよな。ふとした瞬間にそのあたりを見つめて黙り込んだり、何か俺たちには見えないものを見ようとしているようなときがあった」    照之は頷く。  照之には、それが何によるものかはわからない。だが、失踪する直前の翔は、時に立ち尽くしたまま意識を現実から飛ばしてしまったり、ひとりしかいないはずの部屋の中で、誰かと話している声が聞こえたりと、そうした傾向がより進んでいるように見えた。 「今から考えると、それ以前にも、おかしなことはありました。毅さんにもお話したと思いますが、俺たちが里見先生の学園にお邪魔したときのことです」 「ああ、そういえば、そんなこともあったな」  照之と翔は以前、長命種の人々が集まって住む、山奥の学園を訪れたことがあった。  全寮制の中高一貫校、私立天星学園。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加