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そこで起きた事件によって照之と翔は、家族にも等しい存在となった同胞の人々のほとんどを失うという災厄に見舞われたのだ。
「確か、翔がそこで起きた事件を解決したと言ってたな」
「ええ。あいつにあんな推理力があるとは思わなかった。
あいつは器用な性質だし、苦手なことでも結構うまくこなすようなところはある。
でも、こう言ってはなんですが、あの時の翔は普段のあいつとは思えなかった。なんと言うか……」
「誰かに操られているような感じ……とかか?」
うまく言語化できずにいたことを毅に先回りして言われ、照之は一瞬目を見開いた。
「……その通りです」
そのとき照之は、同胞の人々に対する翔の強い思いが、彼にそうさせたのだと思った。翔が、彼自身でない謎の存在に操られたなど、そのときは信じることができなかったからだ。
「でも俺たち自身、自分たちのことをほとんどわかっていないんだ。今は間違いの可能性があっても、少しでも怪しいと思う選択肢を追うべきだと俺は思うぞ」
照之はそう言う毅にうなずきながら、翔を医師に見せたときのことを思い出していた。
照之は確かに最初、何らかの精神疾患の可能性を考え、毅の知り合いである長命種の医師に見せたことがある。しかし、調べても翔自身の心身に異常は認められなかった。
「お前の考えはもっともだが、そもそも俺たち長命種は、地球人がかかるような病には基本的にかからない。怪我をしたとしても修復不可能な重傷でない限り、地球人よりもずっと早く治っちまう。だから……」
「ええ。心配した結果とはいえ、今から考えれば、あいつがおかしくなったと真っ先に考えるなんて、翔には申し訳ないことをしたと思っています。
あいつは心を病んじゃいない。何かに操られたという可能性も含めて、あいつには、俺たちにはわからない何かが起きていた」
「問題は、それが何かってことだよな」
照之は頷く。
それから照之は毅と共にあらゆる伝手を頼り、翔の示した症状に似た状態になった長命種がいないかを調べ始めた。
その結果、照之たちはかつての長命種たちの中に、翔と同じ状態に陥った人々がいたことを突き止めた。そして彼らが一様に「都」と呼ばれた巨大な都市へと送り込まれていることを知ったのだ。
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