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 彼らはみな、翔のように頻繁に意識を飛ばしてしまったり、1人で話したりという症状を示していたらしい。そしてその様子を記録した著者は、彼らはまるで、自分の目には見えない謎の存在と話をしているようだったとも書き残していた。  その記述を見たとき、照之の取るべき行動は決まった。  彼は翔もおそらくかつて「都」へと送られた人々と同じく、謎の存在から何らかの語りかけを受け、それに導かれて「都」へと向かったのではないかと考えたのだ。というより、それ以外に翔の行方を知る指針がなかったと言った方が正しい。  気になるのは、かつて「都」へと向かった人々が、ことごとく命を落としたという記述があったことだった。彼らはそろって事故や人災に見舞われて非業の死を遂げていたというのだ。 「テル、焦るなよ。確かに翔は死んだ連中と同じような状態に陥っていたかもしれないが、だからといって死んでいると考えるのは早すぎる」  照之はその言葉に頷くが、それでも翔がこちらの世界へやってくるまで、非常な短期間のうちに事故や災害、人災に遭い続けていたことを考えると、穏やかな気持ちではいられない。  両親を亡くしてからもう、その顔すら忘れるほどの時間が経った。その間ずっと、照之にとっては翔を無事に育て上げることが、自らの使命だった。それはもはや、照之の生まれた頃からの定めだったとすら思えるものになっている。  そしてそれ以上に、唯一残された家族である翔は、照之にとっては心の拠り所でもあったのだ。翔を失ってから、嫌というほどそれを思い知った照之にとっては、彼が本当にいなくなってしまったとき、自分がどうなってしまうのかが恐ろしい。 「なんにせよ、この先に進んで「都」とやらを見てみるしか俺たちにできることはない。だったら今は、それに集中しようや。それが何の成果ももたらさないとしても、そうとわかってから別の道を考えればいい」  言って立ち上がりながら、毅はごつい手で照之の肩を叩いた。 「はい……」  照之はすでに冷たくなったコーヒーがわずかに残ったステンレスのマグカップを両手で握りしめて答えた。  その様子を見ていた毅は、もう一度照之の肩を叩くと、もう寝ろ、と言って、彼が持っていたマグカップを取り上げたのだった。
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