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 水と花、そして深い森の緑に囲まれたその場所は、墓地というよりも、小さな美しい、忘れられた秘密の花園のようだった。 「静かな場所ですね」  照之は周囲を見回して、呟くように言った。  この場所で聞こえて来るのは、吹き過ぎる穏やかな風に揺れる木々の葉擦れの音と、近くで鳴いているらしい鳥の声、そして円形の小さな庭園の中央に据えられた噴水から流れる水の音くらいのものだ。そこから流れ出た水は、四方へ伸びる細い水路を伝って、庭園の周囲を取り巻く水路へと注いでいる。 「あの子たちはきっと、苦しい思いをして逝ったのだろうから、せめて今は何にも煩わされることなく、穏やかに眠ってほしいと思ってね」  そう答えるのは、傍らに立った、見た目は照之とほぼ変わらないくらいの年齢の、小柄な青年だった。しかしその穏やかな目の奥に宿る、晩秋の陽光にも似た光は、照之には想像もつかないほどの長い間、彼が歩んできた果てしない苦難の道のりを、照之に思い起こさせるものだ。  その彼が、この天星学園の学園長を務める里見諒だった。 「……ええ、そうですね」  照之がそう答えると、里見は照之に向けてわずかに微笑んだ。  里見は、照之と翔の父である武田茂之とかつて懇意にしていた友でもあった。その彼について父からは幾度か聞かされていたが、数奇な人生を歩んできた人だったという。  彼はまだ幼い頃、照之や翔と同じように、原因のわからない事故で両親とも亡くしている。しかし照之たちと異なるのは、その後彼が、地球人に引き取られて育ったということだった。  当時彼は地球人で言うならまだ5歳にも満たない頃で、自分が長命種であることなど、まだわかってはいなかった。彼は各地を巡る行商人であった両親と、旅先にいる時に災禍に見舞われ、そのまま満足に自分の出自を語ることもできないまま地球人の里親に引き取られた。  しかし、長命種と地球とでは生きる時間が違いすぎる。  10数年から20年でほぼ成長を終え、その後は緩やかに老化していく地球人に対し、長命種は成長しきるまでにその10倍は時間がかかる。さらに彼らは大人になると、そこからはもう成長も老化もしなくなる。そんな彼らの生態が、まだ幼かった里見へ、周囲の疑念を寄せる結果となった。
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