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彼は、里見が入れられている檻の前に、里見を金で買った男と共にやってきた。彼は懐に入れていた札入れから、里見が見たこともないほどの大金を出すと男に渡して、しばらく彼と2人で話をさせてほしいと言った。男は上機嫌でうなずくと、檻の側から離れていった。
里見は、自身が閉じ込められている檻の前に男がしゃがんだのを見て、びくりと体を震わせ、奥へと逃げた。檻の中にいる彼の傷が治るところを見ようと、檻の外から木切れで突かれたり、刃物で切られたこともしょっちゅうだったからだ。
だが、豊かな髭を蓄え、黒縁の眼鏡をかけた彼は、里見を傷つけようとはせず、ただじっと、怯える里見の姿を深い目で見つめていた。
「怖がらなくていい。ただ、君に触ってほしいものがある」
発せられた声は低く、今まで聞いたこともないほど明瞭で、よく通った。
彼は身につけた背広の胸元から、細い鎖に通した黒い、指輪のような物を取り出して里見に見せた。
「これに、触れてみてくれないか」
そう言って彼は、檻の中に手を伸ばして、それを置いた。里見はしばらく怯えながら、忙しなく男と、置かれたものを交互に見た。
そして、恐ろしいことが何もないと悟ると、こわごわと手を伸ばし、指先で一瞬だけ男が置いた物に触れ、すぐに手を引っ込める。すると、今までただの黒い石で作られた指輪としか見えなかったそれが、ぼんやりと翠緑の光を放ち始めた。
「やはりか……!」
目を見開いて言った男は、手を伸ばして光を放ち始めたそれを手に取ると、自身でもう一度触れ、どうやったのかはわからないが、光を消した。
そうしてから、彼は再び、身を縮めている里見の方に目を向け、言った。
「君は、長命種という種族の末裔で、私の同胞だ。地球人よりもはるかに長い時を生き、成長には地球人の10倍もの時間がかかる。
そして病気をせず、怪我もすぐに治ってしまい、食事も毎日は必要ない。どうだ、思い当たることがあるだろう」
そこまで聞いた里見の目に、みるみるうちに光が戻ってきた。ほんのさっきまで、世界の全てを拒むような、落ち窪んだ、暗い眼差しで男を見ていた彼の目に、生気が戻ったのだ。
その里見の目に、男は先程の指輪のようなものを見せた。
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