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「これは、遺物と呼ばれるもので、私たち長命種にしか使うことができない。これで私たちは地球人たちの目を眩まして、彼らに紛れて暮らしている。これが反応したということは、とりもなおさず、君が私たち長命種の一員であることの証だ」  里見は、信じられない思いで男を見ていた。今まで100年もの間、誰にも理解されることのなかった彼の体が持つ不思議を、恐れるでもなく、かと言って好奇心を丸出しにして観察するのでもなく、男はただ、当然のことのように言ってのけた。のみならず、彼は自分を里見の同胞だと言ったのだ。  彼はポケットから小刀を出すと、自分の左手に刃を当てがい、素早く引いた。  あっと思ったときには、男の手のひらから血が流れ落ちていた。しかし、その血は里見が見つめる前でみるみるうちに止まり、男の手のひらについていたはずの深い傷までもが、元通りにくっついて、後には傷があった痕跡など、何もなくなってしまった。 「どうだ、これで、私を信じてくれるか」  彼の問いに答えられないまま、里見はまじまじと男の大きく、無骨な手を見つめ続けた。男もまた、里見が納得するのを待つように、傷を付けた己の手のひらを見せ続ける。  やがて、里見は引き寄せられるように両手を地面に突いていた姿勢のまま、ゆっくりと顔を上げて男を見た。痩せこけ、汚れきった顔の中で、それだけが真っ白な目が大きく見開かれ、信じられないものを見たように、荒れた唇がわなないている。  男はその顔に向かって微笑んだ。 「君には、君を理解できる親と、そして仲間が必要だ。私と共においで。  大丈夫。もう何も、怖いことはない」  そう言って、男は薄汚れた檻の中へ、立派な背広に包まれた腕を伸ばしてきた。  里見は反射的にびくりとしたが、男の手はそっと、里見の冷え切った頬に触れただけだった。  彼はそのまま里見の頬を撫で、言った。 「長命種は確かに傷にも、病気にも強い。でも、傷つかないわけではないし、痛みを感じないわけでもない。ましてや、心に傷を受けたときの衝撃の度合いは、地球人となんら変わるものではない。死ぬことだってあるんだ。  それなのに君は、なんの後ろ盾もなくここまで生き抜いた。非力な子供の身で、庇ってくれる者のひとりもない状況で、それでも道を踏み外さず、ここまでやってきた。
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