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君はまだ子供だけれど、もうどんな大人にも負けない、立派な人間だ。
自分を誇りに思いなさい。君は、素晴らしい子なんだから」
頬から彼の手の温もりが伝わるのと同時に、その言葉が里見の心に響いていた。彼は里見の頬を撫でていたのとは逆の腕も檻の中に差し込むと、ほとんど彼を抱き寄せるようにして、その頭を撫でた。
脂じみた髪を撫でられながら、いつしか自分でも知らぬ間に、里見の頬には一筋涙が伝っていた。
両親を失ってからの100年、彼を理解し寄り添ってくれた人など、どこにもいなかった。周囲の人々のように死ぬこともなく、怪我をしてもすぐ治る彼は、地球人の中で、ただひたすらに異端だったのだ。
自分がおかしく、周りが正しいのだと思い込まされ、それでいて決して、その正しい人々の中に混ざることのできない、孤独と絶望に打ちひしがれていたことさえ、今の今まで分からなかった。
「あ……あ……」
そのとき、里見の喉から、しわがれ、潰れたような、掠れた声が漏れた。
もう長いこと、声を出すことを忘れていた。こうして見せ物にされてからは、誰も彼と会話しようなどとはしなかったからだ。
だが今、目の前の男に凍りついていた心を溶かされ、人の身が本来持つ温かさを伝えられたとき、それもまた凍りついていた声が溶け出すように、声が発せられていた。
「なんでもいい。言ってごらん。君の心を、私に教えてくれ」
男は囁くような声で言いながら、薄い着物1枚しか身に纏っていない里見の背を軽く叩く叩く。
それを聞いた瞬間、里見の喉から声が迸った。
それは到底、言葉とは言えない、獣の雄叫びのような声でしかなかったが、里見の心の奥底から搾り出された、魂そのものだったのだ。
そうして里見は、彼を金で買った男に言い値を支払った男に引き取られ、彼の元で暮らすこととなった。それがのちに里見の養父となり、また天星学園を創立することになる、里見隆之介との出会いであり、里見が天星学園の学園長を務めることになるきっかけともなったできごとだった。
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