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この惑星には、もう人はおろか、獣や虫たちもほとんどいない。でもこうして時たま、危険な猛獣に出くわすことも皆無ではない。
今回訪れている場所も、危険な獣が存在している可能性があるとして、本来なら避けていた場所なのだ。
「来る」
押し殺した声で言われる前から、その気配は照之も感じていた。
下草をかき分け、踏みしめるわずかな音が近づいてきていたからだ。
照之は手に持ったライフルを持ち上げると静かに構え、スコープを覗き込んだ。
距離はおおよそ150メートルほど。背の高い下草と樹木の陰から、巨大な獣の頭が見えている。
全身をこげ茶色の毛におおわれた、熊のような巨大な獣だ。
獣は、開けることのできない片目をつぶり、周囲を警戒しながらこちらへやってくる。照之は背後から吹くわずかな風を感じ取り、わずかに眉を寄せる。
おそらく、獣はこの風に乗って届く自分たちの匂いを追っているのだ。照之と毅はそうならないよう、風下に向かって進んでいたはずだったが、ここへ逃げ込んでから風向きが変わっていたのだ。
あの獣と出会ったのは、完全な偶然だった。
森の中を進んでいるとき、進行方向をふさいでいた藪を、毅が腰に提げていた剣鉈で切り払った瞬間、横合いから獣に襲われたのだ。
2人が気付いたとき、すでに獣は両腕を広げて立ち上がったところだった。その姿は写真でしか見たことのないヒグマにそっくりだった。
2人はもともと人里離れた山奥の村で暮らしていたため、山の中での猟は慣れたものだった。狩猟免許ももちろん持っていて、現在活動している年配のハンターよりも、狩猟の経験は長い。
しかし、そんな2人をもってしても、こちらの世界での狩猟は楽なものではなかった。
その原因として主に、こちらと地球では、生息する獣の生態が違うことが挙げられる。
体自体の作りは、こちらの環境が地球に驚くほど似ているせいか、地球に生息する獣とほぼ変わらない。すなわち頭や心臓といった弱点がこちらの獣にも存在するということなので、狙いどころはわかりやすい。
しかし一方で、獣の種類にはかなりの違いがあって、その行動の仕方も照之たちの予測を超えたものになりやすいのがこちらの生物の特徴だ。
だから2人は森に入る前から、付近に危険な獣の気配がないか、常に探りながら進んでいた。
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