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 例えば獣の足跡の深さや糞の量などからは相手の体の大きさが分かるし、木をかぎ爪で引っ搔いたあとなどから行動半径や持つ武器などをある程度予測することができる。  そうやって想像できる兆候を探りながら進んでいたつもりだったが、今回は2人の想定以上に、獣の行動範囲が広かったのだ。    不意に遭遇した獣がそのまま腕を振り下ろせば、鋭いかぎ爪が、振り返った毅の顔面を深くえぐっただろう。そうなれば、毅は重症を負うことを免れなかったに違いない。  しかしそのとき、照之がとっさに翳したクマよけスプレーが毅を救った。  しかし、反撃は中途半端に終わった。  照之が噴射したスプレーは獣の片目だけに当たり、獣はのけ反って地面に倒れ、重々しい地響きをたてた。  しかし、よろめきながらも残された片目を開いて立ち上がった獣は、諦めるということを知らず、再び2人を襲ってくる。  だが、その動きは先ほどよりもかなり鈍い。おそらくスプレーをくらった目が激しく痛むのだ。  2人は獣が叫びを上げてよろめいている間にその場から逃げ出した。  森の中で大分走ったと思っていたが、森が縄張りの獣にとっては、人間の速度に追いつくことなど造作もない。そもそも地球上にいる熊も、乗用車と同じくらいの速さで走ることが可能なのだ。  それ以外にも、住宅地で捕獲され、10キロほど山奥へ放された熊が、3日もたてば元の場所に戻ってきてしまうという話もある。  2人の目の前にいるこの獣もそれと同等、というより、地球の熊より広い範囲を縄張りとしているのかもしれなかった。  しかもその回復力と速度は、人間のそれをはるかに超えていた。長命種で、優れた生命力を持っている照之たちでさえかなわないほどの早さで視力を取り戻した獣は、そのまま猛然と2人を追いかけてきたのだ。  突然のことに動転しかけた2人だったが、むやみに発砲して、互いを傷つける事故を起こしてはいけないこと、そして風上へ向かって逃げて、獣に自分たちの匂いを届かせてはいけないことは体に染みついていた。  懸命に逃げ続け、どうやら獣の視界からは外れたと思われるところで2人は立ち止まった。  すぐに見つかることはなさそうだったが、それでもう安全だと思うほど、2人はこの事態を楽観してはいなかった。
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