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 2人があの獣を見かけたのは、今回が初めてではなかった。だから、あの獣が縄張りの中で、ほかの動物を見つけたときに、容赦なく襲い掛かることを知っていたのだ。それは殺して食料にするためであり、縄張りを荒らした者を排除するためでもある。  だからこそ、2人は油断しなかった。ここで確実に仕留めておかなければ、殺されるのは2人の方で、目的地にたどり着くこともできない。  こうして2人は、あの獣を待ち続けることになったのだ。    藪をかき分ける音は、確実に近づいてきていた。距離はおおよそ100メートル。ライフルで仕留めるには十分すぎる距離だった。 「俺が撃つ。お前も備えておけ」  聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟かれた毅の言葉に、照之は黙って頷く。  万が一外せば、熊の場合銃の音で驚き、怒り狂って向かってくる可能性が高い。おそらくそれは、あの獣にも同じことが言えるだろう。  照之は静かにライフルを持ち上げると、左手で先台を支え、右手でグリップを握った。右頬を銃床につけ、スコープを再び覗き込む。  次の瞬間、照之の左側で凄まじい発射音が炸裂し、スコープの中で獣が一瞬びくりと震えるのが見えた。  毅の放った銃弾は獣の頭を捉えていた。  しかし、おそらく毅はそのとき、獣の肩を狙っていたはずだった。撃った瞬間獣が体勢を低くしたので、結果として毅の撃った弾が頭に当たってしまったのだ。  頭から血が噴き出させながら、獣はゆっくりとその場に倒れていった。しかし照之は用心して、ライフルを構えたまま動かずにいた。  そのまましばらく待っていると、果たして獣は、ゆらりと再びその場で起き上がった。  恐ろしいほどの生命力だった。頭を撃たれてなお、まだ立ち上がるほどの力を残している。  地球で毅と2人、熊撃ちをしたときも、こうしたことが時々あった。  熊は意外と頭蓋骨が小さな動物で、頭を撃っても骨にまで損傷が及ばず、一撃では仕留められない場合があるのだ。  だから照之も毅も、熊を撃つときは頭を狙わない。確実に当てる自信がある距離なら首を、そうでなければ肩を狙うのが通常だ。  肩の付け根に当たれば、腕1本分の肉を取れなくなるが、弾が心臓や肺に入るし、貫通しても血が肺に溜まって呼吸ができなくなるから、確実に動きを止めることができる。
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