2人が本棚に入れています
本棚に追加
3.
獣の襲撃を乗り切った2人は、その日は拠点として使っている照之のキャンピングカーには戻らず、探索の途中で見つけた河原でひと晩過ごすことにした。
山中や森の中で夜を明かすのも、2人にとっては慣れたことだ。
周囲の安全を確保してからテントを張り、腰に提げた剣鉈を使って器用に薪になる木材を調達してくると、2人はあっと言う間に焚火を起こした。
その火に、先ほど獲れた獣の肉をたくさんの野菜と共に入れた鍋を据えて煮込み、醤油で味付けしたものと、炊き立ての白米が、今夜の2人の夕食だった。
湯気のもうもうと上がる獣肉と野菜の煮込み汁を取り皿にうつし、まずは汁をひとすすりする。すると、滋味の強い汁の旨味と熱さが、冷えた全身に染み入るようだった。
もう春先ではあるが、夜になればこの場所は意外なほどに気温が下がる。そういうときに食べる鍋は、冷えた体だけでなく、心まで温める最高のメニューだった。
さらに、適度に脂の乗った獣の肉は、意外なほどに臭みもなく、煮込めばいい出汁が出る絶品の食材だったのだ。
2人は夢中で、貪るようにして鍋を平らげた。最後には汁を白米にかけ、一気にかき込む。
大量の鍋と米を空にして、2人はようやく満足の息を吐き、手を合わせた。あの獣の襲撃を避けるために相当の体力を消耗し、限界まで腹が減っていたのだ。
夕食の片づけを終えると、毅と照之は温かいコーヒーを飲みつつ夜空を見上げていた。
本当は明日も早く出発する予定のため、早めに休まなくてはならなかったのだが、二人ともなぜか目が冴えてしまい、すぐに寝付ける気がしなかったのだ。
「静かですね」
照之が言うと、毅もああ、と答える。
夜の河原は、間断なく響く水の音以外なんの音もしなかった。
地球の山や河原でキャンプをしているときは、夜でもどこかから虫の声が聞こえてきたりするものだが、こちらではそういったことがほとんどない。
そういうことを考えると、改めてこちらの世界は、滅びゆきつつあるのだということがよくわかる。
「また、翔のことを考えてたのか」
毅に問われて、照之は思わず彼の方を見た。
毅は、幼い頃に事故で両親を亡くした照之と翔を一時期自分の家に引き取って育ててくれた、2人にとっては父とも兄とも言える存在だ。その頃すでに照之は、生きた年数こそ地球人より長くなっていたものの、外見はまだ少年で非力な子供だった。
一方毅は、照之たちの父親の代から、武田家とは親しく付き合っていたが、ある時偶然彼らが暮らしていた山奥の集落に迷い込んできた地球人の女性を保護したことで、集落にいられなくなりそうな窮地に陥ったことがあった。それを助けたのが、照之と翔の両親だったのだ。
長命種の総数は現在1000人前後くらいだと言われていて、地球に移住してきた頃よりも、その数を大幅に減らしている。
地球に移住してきた彼らにほとんど子供が産まれなかったことと、原因不明の事故が、彼らを襲い続けたことがその原因だった。
照之と翔が両親を亡くした頃もその状況はほぼ変わらなかった。つまり、長命種は地球人とは比べ物にならないほどその数が少ない。
最初のコメントを投稿しよう!