第12話

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第12話

「――これが僕の真実だよ」  彼の声が聞こえて、わたくしの意識は覚醒し、現実に戻ってきました。 「……そう、でしたの……ずっと、わたくしを想っていてくれたのですね……」  記憶を共有したことで、彼のわたくしを想ってくれた気持ちが、痛いほどに理解できました。  こんなにも、わたくしのことをただひたすら想い続けてくれたなんて、胸が絞めつけられて、苦しくて堪りません。  こんなにも、辛い想いを長年に渡り彼に強いてしまったなんて……なんて、わたくしは悪い女なのでしょう。  彼が想い続けてくれた時間が、苦悩してくれた日々が、途方もなく愛おしくて、愛おしくて堪らないのですから……あぁ、わたくしは本物の悪女ですわ。 「……ルー殿下。わたくし、貴方のお気持ちが、嬉しくてしかたないのです……」  きっと、彼を見つめているわたくしの宝石眼は、今までで一番に光り輝いていることでしょう。  そんなわたくしの瞳を見て、彼は小さく息を呑み、とても嬉しそうに微笑みました。  彼はわたくしの前に跪いて、胸に手を当てて言います。 「ガーネット、僕は君を心から愛している」  紫眼の瞳を煌めかせ、真摯な眼差しをわたくしに向け、彼は告白しました。 「僕の全身全霊を君に捧げると誓う。君が望むのなら、国を繁栄させる賢王にも、近隣諸国を統べる覇王にでもなろう。どうか、君と生涯を共にする栄誉を僕に与えて欲しい」  胸に当てていた手をわたくしの方へと差し出し、彼は求婚しました。 「僕と結婚してくれ、ガーネット」 「……はい。喜んで……」  わたくしが手を添えて頷き返答すると、見守っていた皆さんが一斉に歓声を上げて、拍手喝采してくれます。  いつも連れ立っていたわたくし達の姿を見ていた皆さんは、これ以上ないくらいお似合いの二人だと称えて、盛大に祝福してくれました。  わたくしのためにすべてを捧げてくれる彼なら、本当にどんな願いでも叶えてくれるのだと、今ならよく理解できます。  そのことが、何よりも嬉しいのですから、わたくしは世界一の悪女ですわね。 「ルー殿下」  わたくしはそれまで諦めていた夢を叶えるべく、彼にお願いします。 「わたくし、お願いしたいことがありますの――」  ◆  年月は流れ、そこは色取り取りの花々が咲き誇る長閑な庭園。  幼い娘がはしゃいで駆け回り、まだ年若い母親が戯れて娘を抱きしめる。 「うふふ、捕まえたわよ。わたくしの可愛い宝物」 「きゃー。えへへ、お母様、だいしゅきー」  娘も母親に抱きつき、頬ずりして甘える。  母親のドレスをツンツンと引っ張りながら娘が言う。 「あのね、あのね。お母様、聞いて、聞いて」 「なあに? どうしたの?」  母親が楽しげに娘の顔を覗き込み、娘の話に耳を傾ける。 「わたくちね、お母様みたいステキなシュクジョになるの!」  娘は大好きな母親のようになりたいのだと、懸命に訴える。  母親は瞬きして呆気にとられた顔をした後、フフフと小さく笑い娘に告げる。 「あら、わたくしは『淑女』じゃなくて、『悪女』ですわよ?」  母親の言葉を聞いて娘は首を傾げ、その言葉を復唱して訊き返した。 「アク、ジョ?」 「そうよ、わたくしは自分らしく生きる『華麗な悪女』なのよ」  頷く母親は自信満々に胸を張って見せた。  その姿を見た娘は、煌めく赤い瞳をさらにキラキラと輝かせて言う。 「そうなの! じゃあ、わたくちも、ステキなアクジョになるの!!」  真似をしたがる可愛い娘の頭を撫で、母親は大きくなっている自身のお腹も撫でながら、穏やかに語りかける。 「ふふふ、そうね。貴女は、貴方達は、自分らしく生きて幸せになっていいのよ」  そうしていると、父親が娘ごと母親を抱きしめる。  父親は目を細めて二人を眩しそうに見つめ、愛おしげに囁く。 「そうだね。君がそう望むなら、僕はすべてを捧げて願いを叶えよう。愛しい僕の光と宝物達のために」  ◆  『華麗な悪女』と自称する公爵令嬢は、やがて国中から愛される国母となりました。  華麗奔放な国母の影響により国民の意識は変わり、国柄までもが変貌を遂げたのです。  男尊女卑の傾向にあった女性の地位は向上し、貧富の差なく教育を施した子供達は才能が開花し、国全体が華やいで笑顔が溢れる国になっていきました。  国は益々繁栄して、世界中から最も幸福な国『フロイデラント(聖なる喜びの国)』と呼ばれるようになりました。  大変に仲睦まじい国王夫妻は、たくさんの子宝に恵まれ、我が子同然に民と国を愛し慈しみながら育み、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしたのです。 『わたくし、お母様みたいな慈愛深い母に――国母になるのが夢でした』  愛する伴侶と共にわたくしの夢は叶えられ、多くの子供達や国民達、大切な家族に囲まれて、これ以上ないほどの宝物をたくさん手に入れたわたくしは、本当に幸せ者ですわ。  こんなに多大な宝物を我が物にしてしまうなんて、わたくしったら史上最高の『華麗な悪女』ですわね!  ◆◆◆ ここまでお読み頂き本当にありがとうございます! すごく嬉しいです!! 初めて異世界恋愛に挑戦してみた作品です。少しでも気に入って頂けましたら、ブックマークや★評価などで応援して貰えると励みになります。 応援してくださる温かいお気持ちが創作意欲になりますので、ぜひお願いします。
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