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未知との遭遇
自分の誕生日を意識する高齢者は多いという。
別に幼い子どものようにお祝いしてもらいたいわけではなく、ある程度の年齢に達してからは、自分が何歳まで生きられるのかを意識するのだという。
実際に祖母がそうだった。
八十六歳で脳梗塞を患って右半分に麻痺が残り、結果として病院に五年、ケアセンターに五年いた。
回復の見込みはなく、老衰と同時に痴呆が進むと、面会に行っても反応がない。
布施晴海はそれでも何かしらの反応が欲しくて、一歳半の息子を抱っこして寝たきりの祖母に近づけた。
祖母は不思議そうな顔で自分のひ孫を見つめていた。曾祖母とひ孫の初めての出会い。お互いにとっての未知との遭遇である。
「元気な子だ」
それが祖母がはっきりと意識を持って発した最後の言葉となった。
危篤の知らせを受けて最後に面会したのが正月休みの最終日。亡くなったのは、それから十六日後の一月二十日。
祖母の九十六歳の誕生日だった。
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