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中学の同窓会は、卒業後十年の節目に開催された。
金曜の夜。トラブル対応で出遅れた私は、ほぼ満席の店内に駆け込んだ。慌ててあたりを見回していると、壁際のテーブル席から声がかかった。
「由花子! こっちこっち!」
「えっ……えええ? しおちゃん?」
長かった黒髪は肩上に切りそろえられ、ミルクティー色に染まっている。それでも見間違うはずがない。あのころ、しおちゃんと私は親友だった。
「久しぶりー。由花子、キレイになったねえ」
「しおちゃんこそ! ていうか、欠席って聞いたよ?」
「最初はそのつもりだったけど、由花子に会いたくてさ。実家に子ども押し付けて来ちゃった!」
「えー嬉しい! お子さんたち、もう九歳だよね。何年生だっけ?」
「二人とも、まずは座りなよー」
立ったまま盛り上がり始めた私たちのために、周りの女子が席を空けてくれる。私の前にはメニューが回ってきた。
「乾杯するからドリンク選んでね」
「うん。ありがとう」
「あとで席替えもするからね。男子もだよー!」
幹事の子が周囲のテーブルに呼びかけた。少数派の男性陣は、一つのテーブルに集まり昔話をしているらしい。
中のひとりが顔を上げ、こちらを見た。
「今日って飲み放だよね。ここから選べばいいの?」
私はメニューを見るふりをして、視線をそらした。
当時、しおちゃんが西野くんと結ばれたらしいという噂は、私たちを大いに震撼させた。
中学生のうちに『発恋』することは、無いわけではない。けれど、同級生でそうなったのはしおちゃんたちが初めてだった。初秋の、そろそろ高校入試の影がせまる時期にそれが起こったというのも、私たちを落ちつかなくさせた。
「由花子は聞いてたの?」
「ううん、全然……」
噂が立った週、二人はそろって学校を休んだ。そこで、皆の好奇心はしおちゃんの親友ポジションである私に向かった。
「じゃあ知らなかったの? 二人と仲いいじゃん」
「西野くんとは、そうでもないよ。しおちゃんつながりで知ってるだけ」
「でも近くで見てたでしょ。そういう気配とか、感じなかった? 二人の間に」
「気配? さあ……」
「っていうか、西野くんは同意だったのかなあ」
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