糸を切り、空の広さを知る

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 早くに亡くなった祖父母の家で、母と2人で暮らしていた。築50年以上のボロ家。隙間風は入ってくるし、床はギシギシ鳴く。クモやムカデ達とも同居していた。しかし、母と2人で暮らすには十分すぎるぐらいの広さがあったし、そもそも屋根のある所で生活できるだけでも恵まれていた。    いくつかある部屋の中で、幼少時に足を踏み入れた事のない場所があった。母に「入るな」と言われていたからだ。一度、少しだけ開いていたドアの隙間から、中を覗いた事がある。破けたカーテンから漏れた光が照らしていたのは、たくさんの人形だった。ほとんどが木で出来ていて、みんな足を伸ばして座っている。私は思わず後退りした。人形は笑っていたのだが、その表情に何故か恐怖を覚えたのだ。   「何してるの!ここには入るなと言ったでしょう!」    不意に背後から怒鳴られ、無理やり腕を引っ張られた。母はもう片方の手で荒々しくドアを閉めると、私を居間へと連れて行った。   「どうして入っちゃいけないの?」     母に強く掴まれた腕が少し痛む。   「人形、見たでしょ?あれはね、ママの宝物なの。小さい時におばあちゃんに買ってもらったものもある。普通の人形と違って壊れやすいから、優しくしてあげないとダメなの。分かった?」  
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