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始発電車が私の住む街に着くと
電車を降りてホームを歩き
改札口に向かった。
始発の電車は空いていて
乗る人も降りる人もまばらだ。
改札口を出たら
正面に見慣れた姿が目に入った。
「美月」
「お母さん…
なんでここにいるの?」
私は母の前に立った。
「夜中でも
娘が家を出たら
気がつかないわけないでしょ」
「…今まで、何も言わなかったじゃん」
「気づかないふりしてあげてたに決まってるでしょう?」
「…なんだ
私がお母さんに騙されてたのか」
ふざけて笑うつもりだったのに
言葉より先に涙がこぼれた。
「美月、親はね
子供が何を考えているか
隠しててもわかっちゃうものなのよ」
「…」
土曜の朝
いつもなら
朝早くゴルフの打ちっぱなしに行く父が
ソファに座って
背を向けてテレビを見ている姿が目に浮かんだ。
「美月は
幸せにならなきゃ…」
私は
ただうつむいて頷く事しかできなかった。
「…バカな子…」
母の手が下から伸びて来て
優しく私の髪をなでた。
涙と鼻水がポタポタと落ちる。
もう、終わりにしよう。
月曜になったら
診療所に辞めることを伝えよう。
全部捨てて、リセット。
私は、私から自由になる。
「お腹、すいたでしょ」
「…」
「お蕎麦、食べよっか」
「…だしはインスタントでもいいよ」
「当たり前でしょ」
改札を離れると
沢山の人が私達を追い越して
足早に改札に向かって行った。
差し込んで来た朝日が眩しい。
見上げると
青い空に厚い雲が浮かんでいた。
もう少しで、夏が来る。
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