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この事件の、取り調べに当たったのは、工藤と敵対していた内田と言う男で
「何者かが、入り込んだのでは?」と、ひさご屋の女将に聞く。
「飛んでも有りません、この店の出入り口は一つ
変な輩が、出入りすれば、直ぐに分かります」と、女将は言った。
「では、客の中に、、」みなまで言わせず
「うちのお客様は、全て、素性の知れているお方ばかり、一見様は
お断りしております」と、気色ばんだ口調で言う。
「そうだな~では、やはり内輪もめか」と、光栄時の善道の部屋を調べると
工藤に渡した、賂の控えや、名刀と言われる刀を、何本も、買ってやった事も
書き記されていた、そして、僧房が博打場になっている事も、明白になったが
善道が死んだという事を知った、用心棒や、賭博関係の者は
とばっちりを恐れて、すでに、雲隠れして、誰も居なかった。
結局、工藤家は取り潰され、光栄寺も、廃寺と言う処分が下された。
「お美代ちゃん、おっかちゃんの敵は、討ったからね」と、廉二郎が言うと
「ほんと?」と、お美代は、目を輝かせる。
「ほんとだよ、お美代ちゃんが覚えていた、狸みたいな顔の男は、俺が
その親玉は、廉さんがやっつけたんだ」勇吾も、そう教える。
「有難う、勇さん、兄ちゃん」お美代は、嬉しそうに、お礼を言う。
「さぁさぁ、お墓にお参りして、おっかちゃんにも、知らせてやろうよ」
朝路がそう言って、線香を持つ。
四人は、連れ立ってお墓に行き、手を合わせる。
『お母ちゃん、勇さんと兄ちゃんが、仇討ちしてくれたよ、良かったね。
あたいは、三味線を頑張って、立派な芸者になります、見てて下さい』
お美代は、心の中で、そう母に語り掛けた。
「あ、あそこの茶店で、暖かい、甘酒でも飲もうよ」
帰り道で、茶店を見つけ、皆で甘酒を飲んで温まり、団子も食べる。
そこへ「廉二郎では無いか」と、半九郎を連れた、神崎が来た。
「あ、神崎様」皆は、慌てて床几から立ち上がる。
「そのまま、そのまま、わしも、甘酒を頼むから」
神崎は、皆を手で制して、将棋に座らせ、店の子に甘酒を二つ頼む。
「見回りですか?」と、廉二郎が聞く。
「そうなんだ、まだ幕の内だと言うのに、物騒な事件が多くてな」
そう言いながら「お前も座れ」と、半九郎も座らせ
「この子か?」と、お美代の方を見る。
「はい、今も、お墓参りに行って来た所です」と、廉二郎が答える。
お美代が「小父ちゃんは、だ~れ?」と、首を傾げる。
「わしか、わしは火盗改めの、、、小父ちゃんだ」「ふ~ん」いまいち
納得していない顔なので「とっても偉い人なんだよ」と、廉二郎が教える。
「偉い人って、こんな顔をしてるんだ」お美代の言葉に、皆は吹き出す。
神崎も笑いながら「わしより偉い人は、もっと沢山いるけどな」と
旨そうに、甘酒をすすりながら言う。
神崎と半九郎も、甘酒を飲み終わり、何となく皆で、一緒に歩きだす。
「お美代ちゃん、廉二郎は、良いお兄ちゃんだろ」と、神崎が聞く。
「うん、あたいに、立派な三味線を買ってくれたんだ」「そうか、そうか」
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