初仕事

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工藤も、直ぐに到着し、離れへ行くと、酒と料理が運ばれる。 「もう良いから」と、工藤が言うと、いつもの事なので 心得ている女将たちは「どうぞ、ごゆっくり」と、下がって行く。 その離れの、入り口には、善道に付いて来た用心棒が 裏口には、工藤に付いて来た、家臣二人が辺りを窺いながら、見張りをする。 こんな高級料理店の、奥の離れに、近付く者など居ないが 工藤も善道も、一応の用心は、していた。 二人は、盃を交わし合った後「今月の分で御座います」と 善道が、500両を渡し「すまぬな」それほど、済まないと言う顔もせず 工藤は、金を、自分の横に引き寄せた。 廉二郎と勇吾は、着ている着物を裏返しにして着ると そっと庭伝いに、抜き身を持った廉二郎と、縄を持った勇吾が 入り口の、二人に近付き、二人が、声を立てる間も無く 廉二郎が打ち据え、気絶させ、勇吾が、素早く、猿轡を噛ませ 縄で縛って転がす。 裏口で、のんびりしていた二人も、同様に気絶させ、縛り上げる。 外で、そんな事が起こっているとは、全く気付かない、工藤に善道は 「また、この様な刀が、手に入りましたぞ」と 刀を見せる「これは?」「村雨で御座います」「なんと!!どれ」 工藤は、鞘から抜いた刀身に目をやり「見事だ、さすが村正」と、唸る。 「村正も、よく切れましょうな~」にやりと笑いながら、善道が言う。 「うむ、帰ったら、早速試し切りと行くか」工藤がそう言った時 部屋に飛び込んで来た、廉二郎が、善道を一刀のもとに切り捨て、絶命させた 「な、何者っ」慌てた工藤は、見ていた刀で、応戦しようとしたが 刀を持っている手を、バシッと廉二郎の刀で、叩かれ 「うっ」打たれた手の痛さに、刀を落とし、顔をしかめる。 勇吾が、素早く工藤の後ろに回り、声を出せない様に 口に、丸めた手ぬぐい突っ込み、両手を後ろに捩じり上げる。 工藤は、勇吾を振り解こうと、もがいたが、押さえつける、勇吾の強い力は 立ち上がる事さえ、許さなかった。 「寺社奉行と言う立場にありながら、欲に目が眩み、貰った刀で 試し切りをするなんて、許される事では有りません!! 貴方が切った者にも、貴方同様、家族が居るのです。 母を無残に殺された、子供の悲しみなど、貴方には分かりますまい。 切腹して、あの世で、殺した人たちに、謝って下さい」 廉二郎は、怒りに震える声でそう言うと、工藤の着物の前をはだけ 工藤の小刀で、工藤の腹を切った「ううぅっ」工藤が、前のめりに倒れる。 その両手に、腹に刺さっている刀を握らせると 勇吾は、口に詰めていた手ぬぐいを取り、障子を閉める。 その、あまりの早業に、外の四人は、まだ気絶したままだった。 勇吾は、工藤の家臣の所に行き、美代が教えた人相の 工藤の用人の小刀を抜くと、その刀で、用人の命を奪った。 それでもまだ、気付かない他の三人の縄を切り、与兵衛が待つ部屋に戻る。 そこで、着物を、また元通りに着直し、勘定を済ませて店を出る。 三人が、ひさご屋から、かなり離れた所で、用心棒たちは気が付き 慌てて、離れの部屋に入って、中の様子に腰を抜かす。 大騒ぎになり、呼ばれた役人は、首を傾げる。 「寺社奉行様と、光栄寺の住職?この500両と、刀は、何だろう?」 「住職は、刀で切られていますが、寺社奉行様は 切腹なされているようですが?」「何が、どうなっているのだ?」 さっぱり分からない役人は、一緒に来たと言う、用心棒に話を聞く。 「お前たちは、何者かに、殴られて気絶していたのか?」 「はい、そうです」「この、死んでいるのは、誰だ?」 「この方は、ご主人様に、一番長く仕えておられる、佐野様です」 一緒に来た、もう一人の工藤家の家臣が、答える。 「これは、自分の小刀の様だが」「そうです、、なぜ、自分で、、」 「主の死を、知ったからじゃないか?」「分かりません、、」 そう言っていると、知らせを受けた工藤家から、大勢の家臣がやって来て 「町役人の、出る幕ではない!!」と、大声で喚き 主人と、佐野の亡骸を、運んで行った。
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