初仕事

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神崎は、自分の事の様に喜び 「廉二郎、福も待っておる、遊びに来い」と言って、別れた。 「遊びに来いって、新年の挨拶に行ったばかりなのに」と、廉二郎はぼやく。 家に帰って、炬燵に入り、寛いでいると 「ごめん、ここへ廉二郎様がおいでだと、聞いて参ったのだが」と 美園の配下の黒瀬が、一通の書状を持って来た。 それには、五日後、増師寺に上様のお供で行く、上様は 廉二郎殿に、会いたがっておられる、是非来て欲しい、と書かれていた。 「これって、、行かないといけませんかね~」廉二郎がそう言うと 「お断りなされるなら、美園様と私は、切腹して、お詫びする事になります」 と、物騒な事を言うので「分かりました、行きます、行きますよ」 廉二郎は、大慌てで承知した。 黒瀬が帰ると「廉さん、モテモテですね~」と勇吾が、笑いながら言う。 「神崎様ならまだしも、こちらはちょっと、、、 ご本人と会うのは、楽しいんだけど、周りがね~、肩が張るんだ」 廉二郎は、何か有ると、直ぐ切腹してお詫びをと言う、環境に馴染めない。 翌日、三味線の師匠の家から帰って来たお美代が、おさらい会が有ると言う 「えっ、お美代ちゃんも出るの?」「うん、特別だって」 「お美代ちゃん、熱心だからね~随分上達してるし」と、勇吾も喜ぶ。 「大変だ」廉二郎は、家を飛び出し、呉服屋で、お美代の着物を買って来た。 「お美代ちゃん、おさらい会で着る着物、これで良いかい? お店の人が、これが良いって言ったんだけど」と、着物を見せる。 呉服屋が、悪い物を勧める訳も無く 「ええ~っ、こんな上等な物を?」朝路とお美代は、目を丸くする。 「うん、これなら、どこへ出しても、恥ずかしく無いんだって」 「良いね~これなら、どこの大店の娘さんにだって、負けやしないよ」 勇吾は、手放しで喜ぶ。 「兄ちゃん、、」お美代は、その着物を抱きしめて、目に涙を浮かべ 「あたい、うんと上手に弾けるように、頑張るね」と言うと 「勇さん」と、勇吾を振り返る「分かってるよ、さぁ、うちで練習しよう」 勇吾と美代は、三味線を抱えて、勇吾の家に行く。 「自分の考えをしっかり持って、それに向かって努力してる。 子供って、どんどん成長するんだな~」美代の姿を見送り、廉二郎は呟く。 朝路は、その呟きは、聞かない振りをした。 他人の子供でも、こんなに可愛がるんだ、自分の子供なら もっと可愛がるだろう、それに応えてやれ無い、自分が悲しかった。 「朝路~~」そんな気持ちも知らず、朝路の膝に頭を乗せて 胸を開き、前かがみにさせて、胸先を吸う、その頭を撫でながら 「お美代が居ないと、直ぐ赤ちゃんになるんだから」朝路にそう言われ 「だって、朝路が大好きなんだ、仕方ないよ」と、廉二郎は、更に甘える。
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