月に歌う。3

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月に歌う。3

 パクパクと動かす唇を読むのは、はじめてのことだったけれど、私には彼の伝えたいことがわかった。  わかりやすく、ゆっくりと、唇を一文字一文字紡ぐたびに指さして、最後に拳を握ると軽くガッツポーズをして見せた。  『な か な い で 。』  『が ん ば れ』  たぶん、そんな感じの意味合いだったのだと思う。  彼は、耳が聞こえないのだ。  私は、その日から動画配信サイトを観て、手話の練習をするようになった。  伸ばしっぱなしにしていた前髪を短く切り揃え、下ろしっぱなしにしていた黒髪を結うようにした。  目が、唇が、表情が見えていないと、彼はきっと、会話がしづらいだろうと思った。  ダイエットをして、眉毛を整えて、肌の手入れをして、校則に触れない程度の薄いナチュラルなお化粧を覚えた。  私の書いた、ラブレターは、彼の心に届くだろうか。  
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