2 変わらない日常

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 嫌でも漏れ聞こえてくる会話から逃げるように、佐倉は足早にフロアを移動した。  集めたゴミは地下の集積場に持っていくことになっている。  佐倉の担当は中層階で、四十階まで終えたら、全て地下に運ばなければいけない。  エレベーターのボタンを押した佐倉は、わずかな待ち時間、窓の外に目を向けた。  こういう時、自分が高所恐怖症でなかったことがよかったと思うが、さすがにずっと下を見ていたら足元が冷えてしまった。  頭を振った佐倉が顔を上げると、窓に映った自分と目が合った。  佐倉は薄茶色の髪に同じ色の目をしている。  顔立ちはアルファらしく整っているが、全体的に色白で甘い印象がある。わずかに入っているオメガ性のせいかもしれない。  そのため小さい頃は絶対オメガだろうと周りからも言われていた。  しかし蓋を開けてみれば、ほとんどアルファであるが少し足りない、というなんとも微妙な型であった。  中学の時に検査を受けてから、身長はどんどん伸びた。大した運動をしなくても筋肉が付いて、体格にはアルファらしい逞しさが見て取れる。  かつては街を歩くだけで声をかけられたこともあった。  微弱なフェロモンであっても、人を惹きつける効果はあるらしい。  もう、過去の話だ。  今は筋肉も落ち、頬が痩けて肌も荒れている。  落ち窪んだ目は薄暗くて、自分で見ても気味が悪かった。  こんな姿を両親が見たらなんと言うだろう。  佐倉は中学の時に事故で両親を亡くした。  叔父の家に引き取られて、大学入学を機に都会に出た。  今の自分を誰にも見せられない。  過去を問われないような仕事にしか就けず、何もかも失って、この先の人生に希望もない。 「……お前のせいだよ」  窓に映る自分に話しかけたところで、ポンッとエレベーターの音が鳴った。
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