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もう何年も経って、未練も何もないはずだ。
何もかも放り投げてきたはずなのに、目にするだけで心が乱れてしまうのが悲しくて辛い。
「佐倉くん? 大丈夫か? 体調が悪そうだ」
「……大丈夫です。ちょっと寝不足で……」
帰って早く寝た方がいいよと言われて、佐倉は無理矢理口の端を上げて笑った顔を作った。
本当は膝から崩れ落ちて腕を抱えたいくらい、息苦しくてたまらなかった。
シャッターを切る時の音、手に伝わる振動までリアルに思い出せてしまうのが悲しい。
あれは自分のものではない。
もう、とっくに手を離れて、どこへ行ってしまったかも分からないのだから。
走って走って
逃げ出したはずなのに、一歩も進んでいない。
悔しくて悲しくてたまらなかった。
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