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津久井と夕貴は顔を見合わせた後、二人で揃って首を横に振った。
「私達は付き合ってもいません。佐倉くんのことで決着がつかないと夕貴は前に進めないと言っています。私は夕貴の気持ちが固まるまで、側でずっと待ちます。夕貴の決断を……尊重するつもりです」
夕貴の中に残る、佐倉への感情を知った梶は胸が苦しくなったのを感じた。
津久井のあの態度からしても、もしかしたら自分が選ばれない可能性を感じているのだろう。
五年も側で大人しく待ち続ける津久井の執念を感じたが、梶だって負けてはいなかった。
二人が顔を合わせることは、お互い動き出すために必要なことだ。
だが、いまだに二人の男の間で揺れている状態に見える夕貴を、このまま佐倉の前に出すことを考えたら苦い気持ちになった。
おそらく佐倉は、二人の幸せを願うと思うが、二人が付き合っていないことを知ったら、夕貴の中の感情を読み取ってしまう。
そして夕貴が一生忘れられない相手になって、彼の中に色濃く刻まれてしまう。
そんなことは、絶対に嫌だと思ってしまった。
「分かりました。私も未春には前に進んで欲しいので、決着をつけることが必要だと思っていました。ですが、条件があります」
梶の提案に二人の視線が集中したのが分かった。
梶はゆっくりと、条件について語り始めた。
空港を出るタクシーの中で、梶は佐倉に電話をかけた。
数回のコールで留守電に変わってしまい、何度かけてもだめだった。
今まで散々送れずにいたくせに、鬼のようなメッセージを送っているがひとつも既読にならない。
まさか、全然連絡をせずにいたので、呆れられて嫌われてしまったのかもしれない。
コンテストのことで謝罪もあるのに、その前からキレられていたら、絶対に許してなどもらえない。
梶は自分の太ももを叩いて頭を抱えた。
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