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25 大きな翼
新鮮な空気を肺にいっぱい吸い込んで、空に向かって吐くと、体全体が生まれ変わったように軽くなった。
季節は冬が終わり春になろうとしている。
冷たい風が暖かくなったのを感じて、その心地良さに佐倉は目を閉じた。
高台から見える光景は、連なった山々とひたすら続く大きな田んぼと畑だけだ。
高いビル群に囲まれた生活をしていると、別の世界に迷い込んでしまったような感覚に陥る。
はたして自分の居場所はどちらなのか、それともどこにもないのか。
ずっと分からなくて苦しんでいた。
両親が死んでしまった時、帰る場所をなくしてしまった。
子供のいない叔父夫婦は良くしてくれたが、ある日別の親戚から叔父夫婦は子供が苦手で、二人での生活を望んで作らなかったと聞いてしまった。
今考えると余計なこと言ってくる意地悪な親戚だったが、その時はショックで申し訳ない気持ちになってしまった。
何をしてもされても、気を遣われている気がした。迷惑をかけているんだと思うと、早くここから出ないといけないと思うようになった。
大学の費用は両親の遺産から払った。
残ったお金の半分は叔父夫婦に渡して、半分を持って上京した。
この景色の前に立つと、帰ってきたという思いもあるが、故郷の記憶は楽しい思い出も悲しく感じてしまい、できれば帰りたくはなかった。
三日前、泰成からの電話で叔父の危篤を知らされた。
叔父夫婦には元気でやっているから心配しないでと手紙を送っていた。
手紙の中に緊急連絡先として泰成の携帯を書いて、泰成にも叔父の連絡先を伝えていた。
もし自分に何かあっても、泰成が上手く説明してくれるだろうと思っていたからだ。
そろそろまた手紙を送ろうかと思っていた頃だった。
もともと心臓が悪かった叔父は、農作業中に倒れて、救急車で運ばれた。
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