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緊急手術となって、危篤だからみんなを集めてくれという話になったらしい。
それで連絡が来たというわけだった。
すぐに事務所に向かって泰成に会った。
今後の話を軽くして、すぐに向かえと言ってくれたので急いで新幹線に飛び乗った。
新幹線に乗ってから梶に連絡をしようと思いスマホを探したが、会社に置き忘れてしまったことに気がついた。
戻っている時間はないので、仕方なくそのまま進むしかなかった。
遠くの山々の方に、空を飛ぶ大きな鳥を見つけてぼんやり眺めていたら、名前を呼ばれたような気がした。
振り返って見たが、そこには今までと同じ、静かに墓石が並んでいて、誰一人いなかった。
「お墓ってなんでこんな高台に作るんだろう……。死んでも良い眺めが見れるからなのかな。ねぇ、父さん母さん」
佐倉の目の前には黒い墓石が立っていた。
これは両親の墓だ。
隣は叔父の家の墓だが、叔父はまだここには入らずにすみそうだ。
手術が成功して、しばらくすれば退院すると言われていた。
一時期は危篤だと騒がれたが、開いてみたらそれほど酷くなかったとかで、翌日には意識が回復して親戚に揶揄われて元気に笑っていた。
佐倉がなかなか顔が見せられなくてごめんと言うと、叔父は心配だからたまには帰って来いと言ってくれた。それと、墓参りも忘れるなと言われてドキッとしてしまった。
久々に父と母のお墓を訪れたが、叔父が管理していてくれたので、綺麗に整理されていた。
父の好きだったお酒と、母の好きだった花をお供えして、一息ついたところだった。
この三日間、誰とも連絡が取れない。
仕事の休みはとってあるし、最初は慣れなかったが、なければないで何とかなるものだ。
梶からはきっと今まで通り何の連絡もないだろうから、スマホがなくても何も変わらないなとひとりで笑ってしまった。
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