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「それにしてもここ、歳を取ったらお参りに来るのは大変だな」
先祖代々のお墓は、山のてっぺんに作られていて、千段ぐらいの階段を上って来なければいけなかった。
まるで修行みたいだと思って、また山を眺めようとしたら、今度こそ本当に未春と名前を呼ばれた。
こんなところで聞こえるわけがない。
だけどその声は幻聴ではなく、佐倉の腹の奥まで響いてきた。
「未春」
願望を抱き過ぎておかしくなったのかと思ったが、わずかに風に乗って流れてきたフェロモンの香りで、現実だと分かってしまった。
「うそ……だろ、なんで……」
会いたいと思う気持ちが見せた幻……
……にしてはずいぶんとひどい格好の梶が立っていた。
膝に手をついて苦しそうな姿の梶は、髪が乱れてボサボサになっていた。
はぁはぁと荒い息をして、いつもキッチリ着こなしている高級スーツは大量の汗で濡れていて、ヨレヨレの皺だらけだった。
「智紀……大丈夫か?」
「な……まえ、何度も呼んだ……ハァハァ……やっと……、ここは……万里の長城かっ」
「走って上ってきたのか? 全部で千段近くあるぞ。普段運動しているからって……」
「無茶しても……未春に……」
そこまで言ったところで、よほど急いできたのか、梶はゲホゲホとむせてその場に座り込んでしまった。
佐倉は梶を支えて、とりあえず近くの木陰に座らせて、鞄の中から持っていたペットボトルの水を取り出した。
梶は何度か咳き込みながら、その水を一気にごくごくと飲み干した。
その光景を見ている間も、佐倉は何が起きているのかよく分からなくて、早く状況を聞きたくてたまらなかった。
「なんでここにいるんだ。どうやってここが……」
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