25 大きな翼

3/6

708人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
「それにしてもここ、歳を取ったらお参りに来るのは大変だな」  先祖代々のお墓は、山のてっぺんに作られていて、千段ぐらいの階段を上って来なければいけなかった。  まるで修行みたいだと思って、また山を眺めようとしたら、今度こそ本当に未春と名前を呼ばれた。  こんなところで聞こえるわけがない。  だけどその声は幻聴ではなく、佐倉の腹の奥まで響いてきた。 「未春」  願望を抱き過ぎておかしくなったのかと思ったが、わずかに風に乗って流れてきたフェロモンの香りで、現実だと分かってしまった。 「うそ……だろ、なんで……」  会いたいと思う気持ちが見せた幻……  ……にしてはずいぶんとひどい格好の梶が立っていた。  膝に手をついて苦しそうな姿の梶は、髪が乱れてボサボサになっていた。  はぁはぁと荒い息をして、いつもキッチリ着こなしている高級スーツは大量の汗で濡れていて、ヨレヨレの皺だらけだった。 「智紀……大丈夫か?」 「な……まえ、何度も呼んだ……ハァハァ……やっと……、ここは……万里の長城かっ」 「走って上ってきたのか? 全部で千段近くあるぞ。普段運動しているからって……」 「無茶しても……未春に……」  そこまで言ったところで、よほど急いできたのか、梶はゲホゲホとむせてその場に座り込んでしまった。  佐倉は梶を支えて、とりあえず近くの木陰に座らせて、鞄の中から持っていたペットボトルの水を取り出した。  梶は何度か咳き込みながら、その水を一気にごくごくと飲み干した。  その光景を見ている間も、佐倉は何が起きているのかよく分からなくて、早く状況を聞きたくてたまらなかった。 「なんでここにいるんだ。どうやってここが……」
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

708人が本棚に入れています
本棚に追加