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「いくら急いでいるからって、スマホを忘れるなよ。会いに行ったら未春はいなかったから、会社の人に場所を聞いた。若社長と話して、事情を話して何とか信じてもらって、やっと渡してもらえたから届けにきたんだ」
そう言って梶はポケットからスマホを取り出して佐倉の手の上に載せた。
「いや、ありがたいけど……わざわざ、ここまで来るなんて……」
「だってこうでもしないとお前、また消えてしまうかもしれない。もう嫌なんだ……いなくならないでくれよ」
「なんの話だよ。ここへは叔父のことで来ただけで……明日には帰る予定で……」
やけに感情的になっている梶とは違い、佐倉は状況がよく分からなくて困惑していた。
会いにきてくれたのは嬉しいが、なぜここまでしてくれるのか、それが分からなかった。
「ごめ……ごめんなさい。俺のせいだ」
「え? 何が……?」
「未春が写真家のSAKURAなんだろう?」
「えっ!? どっ、どうして知って……」
「コンテストだよ。五年前の! あの時、俺が気軽に参加したせいで、票が流れてしまった。本当は未春が優秀賞だったはずなんだ……それなのに、俺のせいで……ずっと謝りたくて……」
号泣に近い勢いで梶は泣いていて、だんだんと状況が掴めてきた佐倉は逆に冷静になっていた。
とにかく落ち着かせて話を聞こうと梶の背中を撫でた。
「五年前って言ったら、智樹は高校生か。関係者の息子が賞を取ったって話はチラッと聞いたけど……そうか、それが智紀だったのか。それでSAKURAを……探していた? もしかして泰成にでも聞いたのか? うーん、でも別に俺が賞を取れたとは限らないし、そんなに気に病むことじゃ……」
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