26 あなたの幸せ

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「もう大丈夫。通院の必要もないし、元に戻ったよ。未春の方がずいぶん痩せたんじゃない? 腕とかもっと太かったのに……ちゃんとご飯食べてるの?」  こんな風に気にかけてもらえるなんて、世話好きだった夕貴のことを思い出して、胸が熱くなってしまった。 「夕貴……ごめん、俺……あの時、ひどいことを……」 「ちがっ、違うんだ。悪いのは僕だったんだよ。ずっと謝りたかったんだ」  テラスの出入り口で二人で涙目になっているので注目を浴びてしまった。  津久井からとりあえず座ろうと声をかけられて、佐倉は夕貴と席に着いて、ドリンクを注文することにした。  ドリンクが運ばれてくる間、お互いの近況などを話した。夕貴はフラワーアーティストとして、有名になっていて、海外にまで出向くこともあるそうだ。  作品の販売はネットが中心だが、十分に食べていけるくらい稼いでいると聞いてホッとしてしまった。  コーヒーが運ばれてきて、一口飲んだらようやく本題に入ることになった。 「あの頃、未春のことを好きだったのに、僕は津久井さんにも惹かれてしまって、自分でもどうしたらいいか分からなかった。津久井さんとは、遺伝子的に相性がいいというのが後に分かるんだけど、仕事にのめり込んでいる未春との関係に寂しさを感じていたのもあって、気持ちが止められなくなっていたんだ」  やはりそうだったかというのが佐倉の本音だった。津久井と出会う前から、夕貴とは微妙に心の距離ができていた。  気が付かなかったわけではない、佐倉は忙しいことを理由に、真剣に向き合わなかった。  その時の気持ちを思い出して胸が痛んだ。 「でも……僕がいいって泣いてくれた未春を見て、やっぱりちゃんと未春と生きていきたいって決めたんだ。津久井さんと会っていたのも本当に偶然で、その気持ちを伝えていたんだ。もう、二度と会わないって……」
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