26 あなたの幸せ

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「これは本当だよ佐倉さん。君との関係で夕貴は悩んでいて相談もされたけど、あの時は今の恋人と生きていくから、もう連絡も取らないし会わないとキッパリ言われたんだ」 「あの日、その場面を未春に見られて……、今思えば完全に僕の説明不足だった。未春を怒らせてしまった時だって……恐がらないで受け入れなきゃいけなかった。ちゃんと未春を選ぶって決めたのに……逃げてしまったのは僕なんだ。未春を傷つけたまま、何もできずに逃げてしまった……だからあんな事に……。事故は僕の自業自得で、未春は何も悪くない」 「いや、いいんだよ。逃げてよかったんだ」  ポロポロと涙を流して自分が悪かったという夕貴に、佐倉は違うと気持ちを伝えた。  夕貴をこれ以上泣かせたくないと思っていたが、また泣かせてしまった。 「あの時の俺は正気じゃなかった。本気で何をするか分からなかった。一瞬だけ正気に戻って力が弱まっただけで、あのまま夕貴がいたらもっと傷つけていたと思う。……だからよかったんだ。俺から逃げて……よかったんだよ、夕貴」  夕貴は涙を流しながら肩を震わせていた。  そんな夕貴をさりげなく横から支えた津久井を見て、二人はお似合いだなと思った。  こんな風に寄り添う二人を見たら、きっと気が動転しておかしくなると思っていたけど、実際は心は穏やかで苦しくもならなかった。  それはきっと、あの男のおかげだなと佐倉は目を閉じた。 「そうだ、二人は結婚したのか?」  仲睦まじい様子を見て、すでに番の関係にあるだろうと思ったが、津久井と目を合わせた夕貴は、軽く首を振ってから笑った。 「お互い仕事が忙しくて、まだなんだ。でも今年中にはしようかなって考えてるところだよ」 「そうか……、じゃあ付き合いは順調なんだな。それだけが気掛かりだった。夕貴には、幸せになって欲しいと思っていたから」
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