26 あなたの幸せ

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「うん、もう大丈夫。僕は幸せだから、未春も幸せになってよ」  夕貴の笑顔を見て、胸につかえていた何かがスッと落ちていくような気持ちになった。  恐かったのはもう一つ、夕貴が辛い思いをしているのではないかということだった。  幸せだと聞いて、心が軽くなったのを感じた。 「ああ……そうだな」 「あの人、梶さんとお付き合いしているの? ずいぶん親身になってくれたから」 「えっ……いや、付き合っては……」 「濃すぎるくらいアルファって感じだよね。アルファ同士のカップルも珍しくないし、いい人なら逃さないようにしないと」  まさか夕貴とこんな会話をする日が来るとは思わなかった。  愛し合った者同士、別々の道を歩み、別のパートナーの話をする。  変な感じはしたが、それほど悲しい気持ちにはならなかった。  それはきっと、お互いの関係をちゃんと見つめて、気持ちを整理していたからだろうと思った。 「幸せになってね、未春」  そう言われて佐倉は微笑んで頷いた。  長く長く、長いトンネルの先にやっと光が見えた。  最後は連絡先を交換して、握手をした後、夕貴と津久井は二人で先に席を立って帰って行った。  一人残った佐倉は、息を吐いて頬にあたる風の気持ちよさを感じた。  もう寂しくなどない。  ずっと続いていた贖罪の日々がついに終わった。  あんなに苦しんだ日々が、嘘のようにあっさりと終わってしまった。  しかしこれでやっと前に進むことができる。  軽くなった足元で、梶がプレゼントしてくれた靴が、良かったねと微笑んでくれているように見えた。 「早かったな。もういいのか?」  気がつくと隣に梶が座っていた。  二人と入れ替わりで入ってきたようだった。  二人が座っていた対面の席ではなく、隣に座るのが梶らしいと思ってしまった。
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